広報活動

大正大学 新時代の地域のあり方を構想する地域戦略人材育成事業

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Date: 2022.07.25

文理横断型のカリキュラム“超”改革で「地域戦略人材」の育成を推進!

大正大学「地域戦略人材」

構成:秋山真由美 
撮影:石橋素幸 
編集:プレジデント社

~教育改革で育成事業に採択。歴史ある仏教系大学の挑戦

変化の激しい時代でも活躍できる人材を育てるため、文部科学省(以下、文科省)では「知識集約型社会を支える人材育成事業」などさまざまな取り組みを実施しています。Society5.0など、今後の社会や学術の新たな展開に対して柔軟に対応できる能力を持ち、幅広い教養と深い専門性を両立した人材の育成に取り組む大学を支援しています。
先の事業におけるメニューⅠ「文理横断・学修の幅を広げる教育プログラム(広さと深さを両立する新しいタイプの教育プログラム)」に申請し、見事採択をされたのが東京・巣鴨にキャンパスを置く大正大学です。
大正大学が打ち出したのは、「新時代の地域のあり方を構想する地域戦略人材育成事業」です。今の時代に求められるリーダー像を「地域戦略人材」と定義し、その育成のために、2021年度に全学共通教育科目を刷新。文系大学でありながら、データサイエンス教育を履修できるようにするなど、大幅なカリキュラムの改革を行い、文理横断型のプログラムに舵を切りました。
従来のカリキュラムを、第I類科目(前期全学共通教育科目)、第II類科目(専門教育科目)、第Ⅲ類科目(後期全学共通教育科目)として改編し、第I 類科目は、「学融合・統合型教養教育」「文理融合・データサイエンス教育」「徹底したチュートリアル教育」を特色としました。第II類科目は、第Ⅰ類・第Ⅲ類との整合性・接続を確立しつつ、2022年度からは「学融合ゼミナール」をスタートさせています。第Ⅲ類では「アントレプレナーシップ育成教育プログラム」を用意し、基礎科目、スキル科目、実践科目の3つに分けて、卒業後のキャリアを見据えた共通教育としての位置づけを確立します。
髙橋秀裕学長は、「地域戦略人材を育成する上で原動力となるのは、アントレプレナーシップ(起業家精神)教育です」と説明します。
「アントレプレナーシップといっても、私たちは起業家を養成したいわけではありません。正解のない予測不可能な時代において、どんな職業を選び、どこを拠点にしたとしても、怯まずにこれまでの知識や経験を融合させ、チャレンジしようとする精神を身につけてほしいと考えています。地域社会の多様な課題を解決するためには、さまざまな専門分野の人たちをつなげ調整する必要があり、コミュニケーション能力や交渉力、コーチングやファシリテーションスキルを有した人間が求められるでしょう。そのための教育を重視しているのです」

BILANC28大正大学「地域戦略人材」 大正大学
学長/心理社会学部 教授/博士(学術)
髙橋 秀裕さん

多様な課題を抱えた地域で
活躍できる人材を
どう養成していくか

~学部教育と地域のハブで全学横断的な改革を推進

1926年、「智慧と慈悲の実践」を建学の理念とし、天台宗、真言宗豊山派、浄土宗の三宗による連合大学として創立された大正大学。1943年に真言宗智山派が加わり、四宗による大学運営となりました。実は、地域とつながり、地域で活躍できる人材を育てるという素地は以前からあったといいます。2011年の東日本大震災以降、より地域へと目を向けるようになり、2014年には地域創生・地域課題解決のため基礎研究を行う「地域構想研究所」、2016年には地域創生のために新しい価値を創出できる人材養成を目的とした「地域創生学部」を新設。これまでに103の自治体と連携し、地域貢献や地域課題の解決に取り組んできました。今回の事業公募にあたっても、自治体や企業、学外の実務家にヒアリングを実施したといいます。
中でも大胆かつ面白い試みなのが、 「すがもオールキャンパス」です。大学の ある巣鴨一帯をキャンパスに見立て、地 域全体で学生を育ててもらおうという 実験的なコンセプトで、地域連携・産官 学民連携のプラットフォームとなること を目指します。巣鴨地蔵通り商店街に オフィスを設置し、日本各地のアンテナ ショップという形で、地域を活かす能力 を育む人材育成を行う実習の場「ガモー ルマルシェ」や、カフェ、イベントなどを 学生が運営。実践の中で得た課題や気 づきを、授業で得た知識と相互補完的に 機能させています。 各学部教育の中核として、全学横断 的な教育改革を進めているのが、2019 年7月に始動した総合学修支援機構 (DAC)です。チューターを配した学修支 援を行い、各学科とコンタクトを取りな がら、学修状況の把握と情報共有を行 なっています。機構長を務める神達知純 副学長は、次のように語ります。 「私自身も授業を受け持っています が、毎週学生と接する度に学びが深まっ ていると感じます。DACオリジナルの e-ポートフォリオを活用して学生に授業 や活動の振り返りを記録してもらってい ますが、知識と知識とがつながる瞬間や、他者とのコミュニケーションの中で何 かを知り得た喜びなど、学びを“見える 化”することが、学生にとって成長の実 感につながるのでしょう。また、データ サイエンスの授業でもすでに成果が見 られています。公共政策学科の学生チー ムが2021年に三鷹市の『学生によるミタ カ・ミライ研究アワード2021』で優秀賞 と三鷹市長賞をダブル受賞したのです。 文系大学ですから数学が苦手な学生も 多く、当初は心配もありましたが、数学 が不得意だからといって、かならずしも データサイエンス教育がうまくいかない ということにはならないと気付かされま した。データサイエンスの教員とチュー ターがきめ細かくサポートしたことも、 結果につながった要因だと思います」

BILANC28大正大学「地域戦略人材」 大正大学
副学長/仏教学部 教授/博士(仏教学)
神達 知純さん

教育の在り方が一変
思い切った改革に
踏み切ることができた

それは、教員の理解の得やすさにもつながると、吉川さんは続けます。
「例えば本学は当初、シラバスの複数ある基準をすべてクリアできていませんでした。項目にある『シラバスの第三者チェック』などは、一部の教員にとって抵抗感のある要求です。そこで、どの学部・学科がクリアできなかったのか、なぜクリアする必要があるのかを、求められる背景と学生への影響などとあわせて全教員に共有しました。そのうえで、どうすればクリアできるか考えてもらったのです。その結果、クリアできていなかった学部・学科が『次は頑張ろう』と動いてくれるようになりました」
ただし、前年度にクリアできていたとしても気は抜けません。各タイプの評価項目は毎年見直しが行われる上、クリアできた他大学が増えれば、選定から漏れることもありえます。評価項目が通知されるのは、毎年夏頃。申請期限は11月末で、例年は翌3月に採択結果が公表されます。学事本部大学企画課長の小倉佑介さんは、次のように話します。
「実際に、2019年度は大幅に評価項目が変わって大変でした。それに、いつまた大きく内容が変わるかもわかりません。通知から申請までの約3カ月間にも、できることはやります。進展させられそうな項目を見つけて集中的に取り組んだり、エビデンスを収集したりして、1点でも得点を伸ばそうというスタンスです。いずれにせよ、教員と職員が力を合わせて、日常的な取り組みを続けていくしかないと思っています」

~教職員と連携するため腹を割り、説明を尽くす

一方、大規模な改革であるがゆえに、実現にあたっての苦労も多かったといいます。魅力化推進部の髙橋慈海部長は、大幅にカリキュラムを変革して学融合教育を進めていこうとする大学側と、専門教育の水準を理想化することを目指す教員側との間で、なかなか議論が進まなかったと振り返ります。
「当初は賛成7割、反対3割といったところだったでしょうか。学部学科の先生からはさまざまな反応があり、時には厳しい意見をいただくこともありました。コアカリキュラム化するということは、専門科目を減らすということ。理想や思いに基づいて授業を展開している先生にとっては、複雑な胸中になって当然です。理解を得られるまで、とにかく説明を尽くしました。月に1回の代議員会や、年に2回の教授会などで、学長から本学の方針やこの事業の進め方、共通教育の現状について説明していただき、専務理事と学長、私どもと、学部長を交えた懇談会も随時行いました。それまでは、直接学部長と話し合う機会があまりなかったので、『腹を割って話し合ういい機会になった』と思いがけず喜ばれました。そのような取り組みが突破口となり、大学が目指す改革の目的を理解してもらえるようになっていきました」

BILANC28大正大学「地域戦略人材」 大正大学
魅力化推進部 部長
髙橋 慈海さん

起業家精神を育み
出口を見据えた
カリキュラムを構築

「申請資料を作成するのも大変でした」と話すのは、主に資料作成を担当した総合政策部 総合政策課の福中裕之係長です。
「すべての学部や部門が関わってくるので、編集作業が大変でした。文科省の記入要領と本学の現状との照らし合わせも必要なので、どちらのことも理解していないといけないですし、図解も重要なので時間をかける必要があります。公募の告知があってから締め切りまで数か月ほどありましたが、提出前の1週間~10日間で集中して専務理事、学長、副学長、教職員とで審議検討を重ねました。一次審査に受かった時に初めて“これはいけるかもしれない”と手応えを感じましたね。二次審査対策として、質疑応答集を作り、全員で面接の練習もしました。そういった努力が実ったのかなと思います」

BILANC28大正大学「地域戦略人材」 大正大学
総合政策部 総合政策課 係長
福中 裕之さん

採択されると信じて
審議検討を重ね
苦労も乗り越えた

~変化の激しい時代学びへのチャレンジ精神を

「この事業のおかげでここまで改革ができた」と柏木正博専務理事は話します。
「大正大学は、2010年まで2学部でしたが、その後の10年で6学部に増設し、学生数も約5000人にまで増やした経緯があります。そして、次のステップとして特色ある教育に注力することが重要だろうと考え、これまでもさまざまなチャレンジを試みてきました。本件にあたっては、コロナ禍でキャンパスに学生がいなくなったとき、教職員たちで大学の未来について、ああでもないこうでもないとじっくり話し合えたことが功を奏したのではないでしょうか。すぐに成果が出るわけではないですが、これは未来への投資です。チャレンジしたことで我々も成長することができていますし、試行錯誤の末に取り組みを完成させることができたとき、やっと成果が見られるのだと思っています」

BILANC28大正大学「地域戦略人材」 大正大学
専務理事
柏木 正博さん

これは未来への投資
すぐに成果は出なくても
試行錯誤し続けていく

「まだまだ始まったばかりです」と、前出の髙橋部長が続けます。
「専務理事はこの事業に参加する前から“生涯学び続けることが大事”だと言われていました。卒業後も変化の激しい時代を生きる学生たちは、学びを継続するための力を身につけることが大事です。自ら調べて答えを探したり、ディスカッションして理解を深めたりして、学びの習慣を定着させる。そしてまた次の段階にいく。学生にはそういう体験を積んで、主体的な学習態度や新しい学びにチャレンジする姿勢を身につけてほしいと思います。新しいカリキュラムはこれからが本格的な実施となるので、教職員との連携を欠かさず、結実できるように頑張っていかなければならないと思います」
結果が形となって現れてくるのは、現在の2年生が卒業し、社会で活躍する頃だろうと見込んでいます。2026年の創立100周年、さらにその先を見据えて、大正大学の挑戦は続くのです。

※ 私立大学退職金財団では、教職員の皆様にスポットをあてた「未来を拓く学校人」の情報を募集しています。掲載をご希望の維持会員は、当財団までご連絡ください。

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