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芝浦工業大学 チーム「教職学協働」

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Date: 2022.03.28

文科省の評価項目をヒントに「改革の本質」を読み、実践する!

芝浦工業大学 チーム「教職学協働」

構成:秋山真由美 
撮影:石橋素幸 
編集:プレジデント社

~9年連続採択中!累計採択数は日本一

文部科学省の「私立大学等改革総合支援事業」(以下、改革総合支援事業)は、特色・強みや役割の明確化・伸長に向けた改革に、全学的・組織的に取り組む大学等を支援する補助金事業。「教育」「研究」「地域貢献」「産学連携」の4タイプ(カテゴリ)があり、複数のタイプに申請することができます(図表参照)。

BILANC27芝浦工業大学 チーム「教職学協働」

このうち多くの大学が申請するのがタイプ1の「教育」ですが、2021(令和3)年度の採択校は、前年実績の130校から105校に減りました。また、4タイプすべてに採択されたのは全国で4校のみという狭き門です。
そんな中、芝浦工業大学は、2013(平成25)年の事業開始以来、なんと9年連続で、申請したすべてのタイプで採択されています。これまでの採択タイプ数は合計35となり、日本一。そこで、採択されるコツを伺おうと、芝浦工業大学豊洲キャンパスを訪ねました。
「まずはとにかくやってみることです」
そう話すのは、研究推進担当室長・男女共同参画推進担当室長・SGU推進本部担当事務部長を兼務する吉川倫子さん。学長のもと、教職(教員・職員)協働で積極的に大学改革を推進してきました。同学の改革は順調に進んできたように見えますが、その道のりは決して平坦ではなく、「さまざまな補助事業に申請してきましたが、なかなか採択に至らない時期もあった」と話します。
転機となったのは、2008(平成20)年度の文科省「組織的な大学院教育改革推進プログラム」採択でした。
「前年に非常に大きな補助事業があり、本学のような小さな私立大学は対象にならないだろうと、諦め半分で申請したところ、やはり採択されませんでした。そこで、翌年は大学院の補助事業が行われるのではないかと予想し、“シグマ型統合能力人材”というキーワードでチャレンジしてみたら、見事に採択されたのです。その時に初めて『これはいける』と手応えを感じました」

~自己採点することで大学の「現在地」がわかる

積極的な改革に取り組むのには、創立100周年となる2027年に「アジア工科系大学トップ10」という目標を掲げているという背景もあります。同学が目標達成のために策定した行動計画「CentennialSIT Action」には、「理工学教育日本一(教育)」「知と地の創造拠点(研究)」「グローバル理工学教育モデル校(国際性)」「ダイバーシティ推進先進校(多様性)」「教職協働トップランナー(教職学協働)」という5項目があり、それぞれが改革総合支援事業の各タイプと親和性が高いのが特徴。このため、文科省の評価ポイントとベクトルを合わせて取り組むことが可能になっているのです。
「大学ランキングだけを意識しているのではなく、日常的な努力の結果、海外の方にも意識してもらえる大学になっていくことが理想です。学長が“教職協働トップランナー”を掲げ、教員も職員も一緒に大学改革・大学運営を進めていこうと明言してくれたことで、私たち職員も大きなやり甲斐を感じながら取り組むことができています」
改革総合支援事業は、申請時にタイプごとに設定された改革の評価項目について回答する調査形式で、得点の高い順に採択校が選定されます。
「いわゆるルーブリックなので、自己採点できます。そこが他の補助事業とは大きく異なる点です。平均点を達成しているか、何点足りていないか、採択されるかどうかもある程度予想ができ、対策がしやすいと感じています」

BILANC27芝浦工業大学 チーム「教職学協働」 芝浦工業大学
研究推進室・男女共同参画推進室・SGU推進本部事務部 担当室長・部長
吉川 倫子さん

自己採点することで
自学の立ち位置、
強みや特色が明確に

それは、教員の理解の得やすさにもつながると、吉川さんは続けます。
「例えば本学は当初、シラバスの複数ある基準をすべてクリアできていませんでした。項目にある『シラバスの第三者チェック』などは、一部の教員にとって抵抗感のある要求です。そこで、どの学部・学科がクリアできなかったのか、なぜクリアする必要があるのかを、求められる背景と学生への影響などとあわせて全教員に共有しました。そのうえで、どうすればクリアできるか考えてもらったのです。その結果、クリアできていなかった学部・学科が『次は頑張ろう』と動いてくれるようになりました」
ただし、前年度にクリアできていたとしても気は抜けません。各タイプの評価項目は毎年見直しが行われる上、クリアできた他大学が増えれば、選定から漏れることもありえます。評価項目が通知されるのは、毎年夏頃。申請期限は11月末で、例年は翌3月に採択結果が公表されます。学事本部大学企画課長の小倉佑介さんは、次のように話します。
「実際に、2019年度は大幅に評価項目が変わって大変でした。それに、いつまた大きく内容が変わるかもわかりません。通知から申請までの約3カ月間にも、できることはやります。進展させられそうな項目を見つけて集中的に取り組んだり、エビデンスを収集したりして、1点でも得点を伸ばそうというスタンスです。いずれにせよ、教員と職員が力を合わせて、日常的な取り組みを続けていくしかないと思っています」

BILANC27芝浦工業大学 チーム「教職学協働」 芝浦工業大学
学事本部大学企画課 課長
小倉 佑介さん

事業継続を想定し
日常的な改革を
積み重ねていく

~情報収集と共有を徹底しPDCAサイクルを展開

日常的な取り組みには、大きく分けて2つあると吉川さんは言います。
「1つは、高等教育に係る政策動向を注視することです。文科省のメルマガに登録し、資料や答申はすべて読み込むようにしています。情報収集を欠かさずにいれば、次にどんな評価項目が出てくるのか、ある程度は予測できます。競争的資金に関する新たな情報が入ってきたら、教職協働で構想調書を書いて、できる限りの努力をしています。
2つめは、学長のリーダーシップ。学長がスローガンを掲げ、目標を明確にし、教職員に共有することを徹底しています。例えば、前学長(村上雅人前学長)は“カルチャー・オブ・エビデンス”を掲げ、思い込みや不確かな情報で物事を議論するのではなく、数値データを基に議論する文化を作っていこうと言い続けました。学長が大学の目標をきちんと示さなければ、教職員の目指すものがブレてしまいますから」
日常的に集めた情報は全学で共有し、具体的な戦略に落とし込みます。中心となるのが「学部長・研究科長会議」「学長室会議」で、いずれも教員と職員が参加する教職協働の会議体。そこから、「教授会」「大学院委員会」など教員だけの会議体、「事務役職会議」「毎日のオンライン朝礼」など事務職員だけの会議体に徹底して共有されます。また、FD・SDという研修を定期的に設け、高等教育に係る政策動向などを教員と職員が“共に”“同時に”聞くことを重要視し、全員が理解できるように努めています。
「当初は、どの学部・学科に情報が伝わっていて、どこに伝わっていないのかわかりづらい部分もありましたが、会議の資料にいつまでに誰に何をしてほしいのか、明確な指示書をつけるようにしたら、ちゃんと動いてもらえることが増えました。そういう些細なことを改善しながら、地道にPDCAを回していくことが非常に大事だと考えています」
改革総合支援事業に採択されると、タイプごとに、使途の制約がない経常費補助金が上乗せされます。大宮と豊洲の両キャンパスにある「グローバルラーニングコモンズ」は、これらと一体的に支援される施設設備費を活用してつくられた、留学生と日本人学生が交流するための施設です。
「どの事業が採択されて、補助金がどのくらい増えたのか、結果もきちんと共有します。こうすることで当事者意識が育まれると考えているからです」

~「教職学協働 × DX」で教育改革をリード

“教職協働”で推進してきた大学改革も、近年では、学修者である学生を交えた“教職学協働(教員・職員・学生)”へシフトしています。職員と学生が一緒にリーダーシップ研修に参加したり、教職協働のワークショップに学生が参加したり、構想調書のアイデアやキーワード出しを一緒にすることもあるそうですが、「こうした機会も大学改革のヒントになる」と、吉川さんは言います。
「学修成果を可視化するSITポートフォリオを開発した際には、学生から使い勝手が悪いという意見が多く挙がり、何度もやり直すことになりました。教職員だけでつくると、どうしても学修者である学生の視点が抜けてしまうのですが、学生に意見を求めたことで、利用率も大幅にアップすることができました」
その結果、2021年度「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン(Plus - DX)」のテーマの一つ、「学修者本位の教育の実現」にも採択されました。「学内にはさまざまなシステムが導入されていますが、今まではシステム同士を連動させることが難しかったのです。それを全部連動させ、学習ログのビッグデータとして活用できるようにしています。さらに、一人ひとりの進行度・理解度に応じて学修できるアダプティブラーニングを展開できるようにプラットフォームを構築しているところです」
大学の経営にとって、補助金は大きな存在です。取り組みの成果は学生に還元され、大学が目指す人材育成にも確実につながっていくはずです。
「改革総合支援事業について、不採択になったら嫌だから申請しないという大学もあるようですが、国からの補助金をいただいている限り、文科省の施策の方向性は無視できません。すべての評価項目が合致するのは難しいとしても、どういう教育をしようとしているのか、どういう学生を育てようとしているのか、国と大学でまったく方向性が違うということはないはずです。せめて、それぞれの評価項目を自己採点して、現在の自分の大学がどの立ち位置にいるのか確認してみたらと思います。自学の強みや特色が明確になりますし、今後の方向性について見直すきっかけにもなるのではないでしょうか」

※ 私立大学退職金財団では、教職員の皆様にスポットをあてた「未来を拓く学校人」の情報を募集しています。掲載をご希望の維持会員は、当財団までご連絡ください。

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