拓殖大学 商学部
未来を拓く学校人Date: 2021.12.10
企業のトップや実務家が登壇!日本初のフランチャイズ専門科目
構成:秋山真由美
撮影:石橋素幸
編集:プレジデント社
~OBの熱意からJFAの寄付講座としてスタート
ハードオフコーポレーション、セブン-イレブン・ジャパン、ローソン、モスフードサービス、ダスキン……。上記にあげた企業の役員や実務責任者が教壇に立ちます。ビジネスパーソンならお金を払ってでも聞きたいと思う授業を展開しています。
1900(明治33)年、台湾協会学校として台湾開発に貢献しうる人材の育成を目的に設立され、国際大学のパイオニアとして道を歩んできた拓殖大学。
「フランチャイズビジネス論」は、フランチャイズビジネスの実務と理論を学ぶことができる日本初の授業として、2020年4月に新設されました。学生は、前述のような豪華なゲストスピーカーの講義が受講できます。さらに、フランチャイズに関する専門知識やフランチャイズ展開を行う企業が構築しているビジネスや、高度なシステムやノウハウに関する十分な知識を獲得できるのです。拓殖大学がこの授業を手掛けるきっかけは「日本フランチャイズチェーン協会(以下、JFA)会長(当時)の山本善政さんの功績が大きい」と、担当教員である商学部の池田真志教授がその経緯について教えてくれました。
「JFAの元会長で、ハードオフコーポレーションの代表でもある山本さんは、本学の卒業生です。海外のさまざまなフランチャイズ企業と交流する中で、海外の大学では当たり前のフランチャイズビジネスに関する授業が日本の大学にはないことを憂いていました。その思いを、母校である本学の理事長にぶつけたのだそうです。これをきっかけに、さまざまなテーマを設定できる『流通マーケティング特殊講義A』という科目で、2016年からJFAの寄付講座を開講することになったのです」
寄付講座とは、民間企業や業界団体が教育・研究振興のために寄付する講座。JFAが会員企業の経営幹部や実務責任者に登壇を依頼し、最先端の業界動向を踏まえた講義が展開されます。商学部教授で、商学研究科委員長・フランチャイズビジネス研究センター長でもある田嶋規雄教授は話します。
「これまでも、流通関連の授業の中で、チェーンオペレーションの一つとしてのフランチャイズについて説明することはありました。それを半期の全15回の授業となると、そこまでネタがあるのだろうかと正直疑問でした(笑)。ところが、いざ寄付講座を始めてみると、思ったより領域が広く、奥が深い。しっかりとした科目として立ち上げて、研究をしていく価値があると感じたのです」
こうして4年後の2020年4月、寄付講座だった授業は「フランチャイズビジネス論」という専門科目として開講されることになりました。この科目は、商学部経営学科流通マーケティングコースの科目として開講されています。
拓殖大学 商学部教授/商学研究科委員長/フランチャイズビジネス研究センター長 田嶋 規雄さん 我々の理想は フランチャイズを軸に 研究と教育を融合すること |
~企業のリアルな事例で学生を引きこむ90分
この授業を受講した商学部3年の谷口ひかるさんが、印象に残っている講義について教えてくれました。
「セブン-イレブンの海外事業本部グローバル事業推進部統括マネジャーがゲストだったとき、東南アジアの国に出店する際、事前にどんな準備をしたか、語ってくれました。まず現地に行って一般家庭の冷蔵庫の中身まで見せてもらい、食生活を徹底的に調査するそうです。日本で売っている商品をそのまま現地で売るのではなく、その国の生活や食文化に合わせて商品開発をしたり、物流システムを構築したりしているのだと知り、感動しました」
同じく3年の𠮷田明雄さんは話します。
「僕は株式会社カーブスジャパンの話が印象的でした。中高年女性をターゲットにフィットネスジムを展開している企業なのですが、新しい地域に出店する際の戦略について質問したんです。すると、地元企業の社長の奥さんとあらかじめ仲良くなって、周囲のコミュニティを把握したうえで、出店準備をしていると解説してくれました。口コミで入会する人が多いビジネスだからこそ事前準備に時間をかけているという話が聞けて、経営戦略への理解が深まりましたね」
谷口ひかるさん(左)は「授業をきっかけに、今までと違った視点で企業研究ができるようになった」と、振り返る。 毎回ゲストスピーカーに質問する𠮷田明雄さん(右)は「フランチャイズに対する理解が格段に深まった」と話す。 |
ここまで具体的な話を企業から直接聞ける機会は滅多にないはずです。
「どの企業の方もかなりの準備をして登壇してくださいます。90分間の授業を有意義な時間にするため、事前に教室の下見をしたり、分刻みの台本を用意してきたりするゲストスピーカーも。また、実際に加盟店募集に使う資料や、商圏分析の具体的な数字を見せてもらったケースがありました。そこまでしてもらえるのは本当にありがたいですね。研究者である我々からしても興味深く、受講した学生の満足度が非常に高いです」(池田教授)
~理論と実践の両輪で学生の成長を促す
本授業の目的は、「学生が社会に出たときに生かせる知恵と知識を養うこと」。前期計15回の授業は、拓殖大学の教員による理論と、ゲストスピーカーによる実務の両輪で展開しています。どちらか一方に偏らず、バランスよく学べることも、この講座の魅力です。
ゲストスピーカーの選定はJFAの全面バックアップのもとに行い、小売、外食、サービスの3つの業種から満遍なく選んでいただくよう頼んでいます。ゲストスピーカーには店舗開発やマーケティングといったテーマを設けてもらい、現場にいるからこそわかるリアルを学生に伝えるよう意識してもらっています。
「フランチャイズビジネス以外の話も思いのほか重要です。企業のトップから創業秘話や成長ストーリー、困難の乗り越え方などを聞けると学生の興味を引きますし、経営全般についての理解が進んでいくのではないかと考えています」(池田教授)
授業後は、学生たちに“この講義から何を学び、何を得たのか”を出席カードに書いて提出してもらい、JFAを通じて企業にフィードバックしています。
「カードに書かれた質問に対して、後日回答を送ってくださる企業もありますし、カードのお礼として、学生全員に向けてメッセージをくれた企業もありました」(池田教授)
拓殖大学 商学部教授 池田 真志さん 教員が教えられない 現場のリアルな話から 学んでほしい |
企業側にとっては、大学生と接することで優秀な人材を知ることができ、その学生をインターンシップなどに誘導できるという利点があります。大学の印象を企業同士で共有することもあるというから大学としては気が抜けません。実際、授業を通じてゲスト企業に興味を持ち、インターンシップに応募した学生や、新卒採用にエントリーした学生もいます。
「私はまだ具体的な進路は決まっていませんが、企業研究をしていく中で、これまでと違った視点で就職先を考える手掛かりになりました」(谷口さん)
「どうやって会社を成長させていくことができたのか、就職活動前に創立者の話を聞けたことは収穫でした」(𠮷田さん)
この言葉を受け「学生にとっては貴重な学びの場ですが、同時に、企業に対して本校のイメージを打ち出す重要な機会でもあると思っています。幸い本学の受講生は真面目で熱心なので、好印象を持っていただけていると思いますが、評判を落とさないように気を引き締めていかなければなりません」と、田嶋教授。
~日本経済の鍵を握るフランチャイズの未来
日本国内におけるフランチャイズチェーン数は1308チェーン、総店舗数(直営店と加盟店の合計)は25万4017店舗あり、売上高は25兆4000億円にものぼります(2020年度)。小売・外食・サービスなどの分野で展開され、私たちは日々何らかの形でお世話になっているのです。
「産業規模としても非常に大きく、日本経済に多大な影響力を持っています。ビジネスをゼロから立ち上げることも重要ですが、フランチャイズを活用すれば非常に効率的かつ効果的にビジネスを展開することができます。コロナ禍で疲弊した日本経済を再生・発展させる一つの原動力になっていく可能性も秘めているのです」(田嶋教授)
本授業は、教授たちの研究にも生かされています。フランチャイズビジネスの奥深さと可能性を感じた田嶋教授らは、2020年4月、専門科目の新設と同時に「フランチャイズビジネス研究センター」を設立しました。フランチャイズビジネスを中心に、流通、マーケティング分野の研究をさらに深化させ、持続的な成長を支える“知の創造”を行うことを目指しています。
「日本のフランチャイズの仕組みは世界でも進んでいると言われますが、きちんと研究されているかといえば、そうとはいえない状況でしょう。我々は、JFAとの連携を生かしながら一般的な理論と事例をつなぎ、業種ごとの特殊性を加味したうえで研究を蓄積・展開していきたいと考えています。それに、この研究センターの成果を直ちにフランチャイズビジネス論の授業で学生たちに還元できるのは大きなポイントです。ここで学んだ人材を広く世に輩出することが、社会貢献にもなり、好循環が生まれると思います」(田嶋教授)
「学生は必ずしもフランチャイズ業界を進路に選ぶわけではありません。しかし、フランチャイズビジネスについての正しい知識を身に付けておくことは、ビジネスパーソンとして武器になり、その人が社会で活躍すれば、フランチャイズ業界にとっても、日本経済にとっても意義のあることだと思います」(池田教授)
フランチャイズビジネスの実態を正しく知り、その仕組みを理解することは、日本経済成長の鍵を握るかもしれません。そして、その特色ある学びの価値を明確に打ち出していくことこそが、大学の生き残りをかけた戦略の一つになるはずです。
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