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武蔵大学 社会実践プロジェクト

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Date: 2021.08.03

快挙! ! ACジャパン広告学生賞 13年連続受賞

武蔵大学 社会実践プロジェクト

構成:秋山真由美 
撮影:石橋素幸 
編集:プレジデント社

~社会とつながり、社会に問いかける力を養うために

ACジャパンが主催するACジャパン広告学生賞(以下、広告学生賞)は、若い世代が広告制作を通して公共広告への理解を深め、「公」への意識を育むことを目的に、2005(平成17)年に設立されました。参加校の多数を芸術系大学が占める中、「武蔵大学社会実践プロジェクト」は、13年連続で受賞しています。
2021(令和3)年、同賞の「テレビCM部門」で奨励賞を受賞したのが、社会学部メディア社会学科3年の望月あみさんの作品『それは「夫婦喧嘩」とは呼ばない』。モラルハラスメント防止をテーマに、被害者に「我慢するのは、もうやめよう。」と伝え、専門の相談窓口を紹介しています。

BILANC25武蔵大学 社会実践プロジェクト
「決して賞を取ることを目的にしてはいないのです」と話すのは、2004(平成16)年に武蔵大学社会実践プロジェクトを立ち上げた社会学部長の小田原敏教授です。
武蔵大学は、1922(大正11)年に開学した日本初の私立七年制高等学校である旧制武蔵高等学校をルーツとし、1年次からのゼミと徹底した少人数教育で知られています。教育理念は、「知と実践の融合」。本プロジェクトはこの哲学を受け継ぎつつ、学生が自らの知見や主張を積極的に発信できるよう、実践的な学びを推進しています。
「頭だけでわかってほしくない。講義、実習、体験。この3つを組み合わせることによって初めてメディアを理解できます。本プロジェクトが目指すのは、正課授業とサークルとの中間領域を埋めるような活動です」(小田原教授)
単位取得につながらない活動にもかかわらず、多くの学生が成長するために集まってきます。

~社会問題をどう見つけどう伝えるかが鍵となる

プロジェクトに参加し、初めてCM制作を経験したという望月さんは、「千葉県野田市の小4虐待死事件のニュースがあまりにもショックで、少しでも自分に何かできないかと感じたことが企画のきっかけだった」と話します。虐待が問題となったこの事件の背景には、父親の妻に対する家庭内暴力があったことを知り、企画を提案しました。
「でも、ゼミの学生同士で話したところ、モラルハラスメントについて意外と知られていないことがわかり、『もしかしたら当事者ですら気づいていないかもしれない』と、このテーマに決めました」(望月さん)
コロナ禍ということもあり、プロジェクトの企画会議などはオンラインで行われ、制作はすべて自宅に籠もって一人で担当したと言います。

BILANC25武蔵大学 社会実践プロジェクト 武蔵大学
社会学部メディア社会学科3年
望月 あみさん

CM制作を経験し
社会問題への関心が
ますます高まった

「お絵かきアプリを使って自分でイラストを描き、パワーポイントや無料の動画編集ソフトを使って編集し、ナレーションもイヤホンの内蔵マイクで自分で録音しました。CMの長さは30秒。早口になり過ぎないよう、でも言いたいことを盛り込めるように何度もやり直して、30秒は意外と短いことを実感しました」
受賞は予想外だったと言いますが、
「自分なりに頑張りました。ただ、もう少しうまくできたのじゃないかとも思います」と話す望月さん。それに対し、「足りない部分がわかるのは成長の証し」と小田原教授はにこやかに返します。

~好奇心旺盛な学生のため実践的な学びの場を

武蔵大学社会実践プロジェクトには、広告学生賞に参加する「ACプロジェクト」のほか、学生が制作したドキュメンタリー番組を放映する「J:COMプロジェクト」、大学紹介映像などをテレビやYouTubeで配信する「武蔵テレビプロジェクト(ムサシテレビ)」があります。
プロジェクト発足の経緯について、小田原教授が説明してくれました。
「関西の大学で教鞭を取っていた私が、非常勤で勤務していた武蔵大学の学風に惹かれて移ってきたのが2004年。それまでの10年間、メディア論の講義やノンリニア編集機を使った制作実習を担当してきました。しかし、これからは従来の社会学だけでなくメディアスタディーズが重要になるだろうと、メディア社会学科という新しい学科の設置と同時に移籍してきました」
新設されたメディア社会学科を希望してきたのは、好奇心旺盛な学生たち。講義だけでは物足りないという雰囲気がひしひしと伝わってきたそうです。
「そこで実践の場をつくろうと、2006年に立ち上げたのが『武蔵ラジオ』です。オープンキャンパスの時、来場した高校生にラジオ機器を配り、学内でコミュニティFMの番組を配信したのです。その後、もう少しインパクトのあることをしたいということで始めたのが『ムサシテレビ』です」(小田原教授)
コンテンツ制作から編成、生放送まで、学生が主体となって手探りで進められていきました。しかし、正規の授業ではなかったために予算が下りず、サークル活動のような補助金も出ませんでした。
「お金がなければ活動を続けられませんし、学生に負担させるわけにもいきません。最初は直談判して臨時予算の中から学長の決裁で20万円ほどの実費を出してもらいましたが、翌年からは、正式な予算が下りるよう大学に働きかけることにしました」(小田原教授)

BILANC25武蔵大学 社会実践プロジェクト 武蔵大学
社会学部長/教授
小田原 敏さん

授業からこぼれ落ちた
大切な学びを社会と
つながりながら実践する

「講義・実習に準じたものであるか」「学生にとって教育的効果があるか」「社会にとってなんらかの有用性があるか」などの条件をクリアして、2008年からは正式なプロジェクトとして認められ、予算が計上できることになりました。
「広告学生賞に参加するようになったのもこの頃からです。参加希望者を募ったら、経済学部・人文学部・社会学部の3学部からたくさんの学生が集まりました。まずは街に出て広告やメッセージを調査してもらい、『自分たちは何を社会に発信すべきか考えてごらん』と、問題発見力を育むことに注力しました。その基礎ができてから実習に移ります」(小田原教授)
夏休みにワークショップを開催した後、学内予選会を行い、上位10作品を本選に提出しました。すると、思いがけず高評価を得ることができたのです。
「運良く毎年受賞できていますが、その理由はわかりません。文系大学といっても学際的なので、参加大学の多数を占める美術系大学とは違ったアプローチが評価されていると思います。賞に応募するという出口があるからこそ学生たちも頑張れます。現在は、メディア社会学科の社会学方法論ゼミという実習系のゼミの中で学内選考を行っているため、残念ながら他学科の学生が参加する余地はなくなってしまいましたが、この先も、“社会とつながること”“社会に問いかけること”が目的であることには変わりありません」(小田原教授)
プロジェクトの活動内容に惹かれて入学を希望する学生もいて、卒業後の進路に、広告代理店や制作会社などのメディアに関わる企業や職種を選ぶ学生が増えました。もともと女性やジェンダーをめぐる問題に興味があったという望月さんは、ACプロジェクトに参加したことで、ますますCMや社会問題に対する関心が高まったと言います。
「与えられた枠の中で、いかに無駄な情報を削ぎ落として、自分の思いを伝えるかを学びました。『この表現はいいな』『自分だったらこうするな』など、テレビCMの見方も変わりました。ゼミではメディア・リテラシーについて学んでいますが、さらに視野を広げて卒論テーマを見つけたいと思います」 「キャリア教育という側面からも、経験するのとしないのとでは、仕事の向き不向き、といった社会に出た後のイメージに差が出てくると思います。どの職種でもメディアと切り離して考えることはできません。身の回りの問題について興味・関心を持つことは大事なので、このプロジェクトで身に付けた力は社会に出てから役に立つはずです」(小田原教授)

~豊かな土壌に種を植える大学教育の根底を体現

テレビからYouTubeなどの動画配信やSNSへのシフトなど、メディアの在り方は時代と共に変化しています。同様に、大学教育の在り方も時代の変化に合わせて問い直す時期にきているでしょう。
「現在の大学教育はアドオン方式で、あれも大事、これも大事と言って上乗せする傾向にあります。ところが、1コマ90分×15週の中でできることは限られており、以前から取り組んでいる学びに新しい学びをどんどん付け足していけば、本来のベースの部分から必ず欠落する部分や弱くなる部分が出てきます。例えば、データ分析の手法を学習して論文を書かせたとして、データ分析は素晴らしいけれど、仮説の立て方がすごく弱いとか」(小田原教授)
だからこそ、授業でもない、サークルでもない、その中間の空白地帯を埋める社会実践プロジェクトのような場が必要なのだと続けます。
「もちろん、プロジェクトの中身は社会やメディアの環境に合わせて変えていく必要があるでしょう。今や、スマホ一つで誰でも簡単に動画編集ができる時代です。大切なのは、テクニカルなスキルではなく、社会を見る目を養い、考え、伝える力。これまで以上に企画を立てる力やストーリーを描く力が問われます。大学で学ぶということは、単に技術を身に付けたり、ものの見方を学ぶという以上に、頭の中にいろんな種を植える作業だと考えています。その先に、発芽させて、有機的に結合させたり、あるいは影響し合ったり……。本プロジェクトは、種が豊かに花開く土壌を用意する役割を担っており、この姿勢こそが大学教育の根底だと思います」(小田原教授)

※ 私立大学退職金財団では、教職員の皆様にスポットをあてた「未来を拓く学校人」の情報を募集しています。掲載をご希望の維持会員は、当財団までご連絡ください。

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