山田学園 名古屋文化短期大学グローバルプログラム
未来を拓く学校人Date: 2021.03.31
短大から世界で活躍する人材を!
令和の実学を学ぶグローバルプログラム
構成:秋山真由美
撮影:山田学園
編集:プレジデント社
~海外の学位が取得できるプログラムを導入
緊急事態宣言が延長される中(注:取材は2021(令和3)年1月27日に実施)、台湾への渡航を待ちわびる学生たちがいます。
愛知県名古屋市。新栄町駅に程近い場所にある名古屋文化短期大学のグローバルビジネス(経営)コースとグローバルホスピタリティ・マネジメント(観光)コースに通う1年生計4名です。2020年4月の入学当初から、留学に向けて着々と準備を進めてきました。無事に渡航できた暁には、まず台湾・中華大学で2年間、英語と中国語、専門知識を習得。その後、イギリスに渡り、経営コースの学生は西イングランド大学、観光コースの学生はサンダーランド大学で1年間、さらに語学力と専門分野の知識を磨く予定です。卒業時には、日本の短期大学士、台湾とイギリスの四年制大学の学士、合計三つの学位を取得することができます。
短期大学に入学しながら、4年間で短期大学士と海外の二つの四年制大学の学士まで取得できてしまうという、このユニークかつ画期的なプログラムの名は「Triple Degree Program」。名古屋文化短期大学が70周年を機に2020年からスタートさせた3大学共同グローバルプログラムです。
「これからの時代に求められるのはグローバル人材です。それも、単に英語が話せるというだけでなく、国際社会を理解し、必要とされる実学を身につけた人材です。本学では、これまでも積極的な国際交流を推進してきましたが、それを継続するだけでなく、次のステージに向かっていく必要があります。短期留学を推奨したり、外国人教師による英語教育を行ったりするだけでなく、海外の四年制大学の学位を取得できるプログラムを作りたかったのです」
そう話すのは、理事長の山田美智子さん。戦前の山田和服裁縫所を前身に、1950(昭和25)年に開学した名古屋文化短期大学は、女性が自立し、社会に貢献するための教育に力を注いできた短期大学です。
山田学園 理事長 山田 美智子さん 本気で育成したいのは、 実学を身につけた 新時代のグローバル人材 |
「常に先取の気風を持って、時代の要請に即応し、広い視野から先見的に対応する教育を実践している」という山田理事長の言葉通り、30年以上前からアメリカ・ポートランド州立大学などと提携し、短期留学を学生たちに奨励、2004(平成16)年には男女共学化をするなど、時代の変化に即した対応をしてきました。しかし、少子高齢化による18歳人口の減少や時代のニーズの変化などにより、大学でも専門学校でもない短期大学はより一層の苦境に立たされています。そんな中での「Triple Degree Program」の実現は、短期大学としての生き残りをかけた挑戦だといえるかもしれません。
~プログラム成功の鍵を握る国際交渉人
実現に向け白羽の矢が立てられたの は、山田理事長と30年来の付き合いがあるという国際センター長の牧野卓司さん。名古屋で生まれ育ち、30年間アメリカで公認会計士として活躍していたという異色の経歴の持ち主です。
「最初にこの話を聞いた時は驚きました。学生からしてみたら、短期大学ではなく、四年制大学に志願するようなもの。しかも、4年間のうち3年間は海外の大学です。入学後のほとんどを海外で過ごすなんて、他大学でも聞いたことがないですし、極端過ぎるのではないかと思いました。しかしそのぶん、世界で通用する人材を輩出したいという強い意気込みを感じ、自分にできることならお手伝いをしたいと思いました」
そして理事長、学長と共にプログラムの方針を決め、提携先の各大学と協議しながら詳細を詰めていきました。
「台湾の中華大学とは2019年に提携済みでした。本校と同じく実学を重視している大学で、グローバル人材を育成したいという考え方や方向性もマッチしたため、すぐに意気投合したという経緯があります。あとは、学生が単位を取れるようにするために、実務面での細かい調整が必要です。現地の先生とやりとりをしながら、本校の授業スケジュールを中華大学の1年次の授業スケジュールに合わせたり、評価をどうするのか具体的に話し合ったり、同等の教育カリキュラムになるように準備しました」
山田学園 名古屋文化短期大学 国際センター長 牧野 卓司さん 生き残りをかけ、 グローバル化を推進する 使命を背負っている |
前職の仕事柄、外国人との交渉には慣れていたという牧野さんですが、教育や学校の現場経験はなく、困難や苦労を感じる場面はなかったのでしょうか?
「いえ、私としては非常にやりやすかったですね。新参者で、しかも教職経験のない私がいきなりプログラムのリーダーになったことに複雑な心境の方もいらっしゃったかもしれませんが、教務課や入試課の職員方も先生方も快く協力してくれましたし、風通しが悪いと感じることもありませんでした。女子大を共学にしたり、留学生をたくさん受け入れたりしている背景があるので、もともとダイバーシティを推進する風土が醸成されていたのかもしれません」
~コロナによる渡航延期。重要なメンタルヘルスケア
しかし、徐々に準備が整っていく中、新型コロナウイルス感染症が世界中で猛威をふるいます。多くの国への渡航が制限されるなど、グローバルプログラムの実施も難航していきました。
「正解がない状況で新しいことを始めるだけでも大変なのに、コロナの影響で留学ビザが停止になるなど、さらに先が見えない状況になってしまいました。唯一救いだったのは、留学先の大学が、優れたコロナ対策を実施する台湾だったこと。スケジュールは後ろ倒しになりましたが、ひとまず2月の渡航を目指して準備を進めることができています。もし留学先がヨーロッパの大学だったら完全に断念せざるを得なかったでしょう」
この事態により、渡航を待つ学生たちのメンタルヘルスの問題も浮上しました。
「留学予定の学生たちは、もともと向上心や目的意識の高い学生ばかりでしたが、いつ渡航できるのか、現地ではどんな生活になるのか、先の見えない状況が続いたことで、不安が増してきています。私たちは粛々とできる限りのことをするしかありませんが、同時に、学生たちの心のケアや保護者の方への状況説明も欠かさないようにしています」(牧野さん)
「ランチ女子会を開催するなど、学生の話を直接聞き、不安をできる限り払拭できるよう努めています」(山田理事長)
「Triple Degree Program」に参加する学生たちが気軽に何でも質問できる交流の機会をこまめに設けている。
今回のプログラムにおいて、牧野さんたちの願いはただ一つ。学生全員を安全に渡航させ、無事に3年間の留学を終えて、元気に卒業を迎えてもらうことです。
「私も留学の経験があるのでわかりますが、どんなに日本で英語を学んでいても、実際に海外へ行ってみると、想像と違い過ぎてびっくりすることがあります。今まで一生懸命勉強してきた子が挫折してしまうこともあり得ます。こればかりは行ってみないとわかりません。今回の参加者である4名全員が無事に留学を終え、イギリスのそれぞれの大学で卒業してくれるのが一番の希望です。卒業後は、現地で就職してイギリスに残ることも考えられますし、日本でも、他の国でも、仕事の選択肢や活躍の場は広がることは間違いありません」(牧野さん)
~学内外から働きかけグローバルな空気を醸成
2年目である 2021年度の「Triple Degree Program」の志願者は、昨年度を上回っています。入学後に参加を希望する学生もいるため、実際の人数は未定ですが、今後さらに志願者は増えていくと予想されます。
「新聞広告や地下鉄の交通広告、テレビCMを打ち出したことで、大学名やプログラムの認知度も上がってきています。見た人からは、“すごいことをやっているね”とよく言われます。それに、学内からの反響も。このグローバルプログラムは、本学のビジネス・服飾美容・フードビジネスの三つの専攻と15のコースのうち、まだ一部のコースにしか導入されていないため、“うちのコースでも取り入れたい”という声が多く上がっているのです。もちろんうれしいことですが、実際にどの大学とどういう形で連携するのか、考えなければいけないことは山ほどあります。学生には専門知識を教えるだけでなく、グローバルな視点やビジネス展開についても伝えていきたい。学内で議論を深め、海外の大学ともやり取りしながら進めなければなりません」
「Triple Degree Program」を第一のグローバルプログラムとするならば、第二・第三のグローバルプログラムも進行中です。中華大学との交換留学プログラムや、アメリカ・ポートランド州立大学との学位留学、韓国語や韓国の文化を学びたいという学生のために、韓国の大学との提携も進めているところだと、牧野さんは話します。
さらに、キャンパス内に国際センターを作り、異文化交流を気軽にできるような場づくりも進めています。
「カフェラウンジのような空間に外国人の先生がいて、学生たちがコーヒーを飲みながら気軽に留学の話や英会話ができるようにする予定です。半ば強制的にグローバルな空気を醸成してしまおうというわけです」
ラウンジのような空間で外国人の先生と留学の話や英会話でコミュニケーションができる国際センター。
少子高齢化で子どもたちの数は減り、短期大学の未来は決して明るくありません。経営する側としては短期大学を四年制大学にして、学生から長く学費をいただくという考え方もあり得る話です。
「私たちはそういうやり方を選択せずに、海外で勉強できる環境を整えることで、学生の知識や技能を高めて、グローバル社会でも通用する実学を身につけ、自分の地位を高めてほしいと考えています。3年間の留学は難しくても、学内で刺激を受けて、英語や海外に興味を持つようになったり、短期留学してみようという気になったりする学生も増えていくことでしょう。そうやって、真のグローバル人材を養成する学校として認知してもらえれば、全体的な志願者数も増えていくのではないかと考えています」
大学の入口と出口の明確化は今後ますます重要視されます。3年間の留学でグローバルに活躍できる人材を育成するという明確な出口が見えることは、学生にも就職先にとっても魅力的なのではないでしょうか。プログラム参加者4名の動向と、今後の展開に注目です。
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