広報活動

和光学園 総務企画部

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未来を拓く学校人

Date: 2020.12.15

12年続く異色の電車広告「和光3分大学」の秘密に迫る

和光学園総務企画部

構成:秋山真由美 
撮影:加々美義人 
編集:プレジデント社

~学びとは何かを問う「読ませる広告」

「広告に踊らされるもんか! という人にこそ読んでほしい。」
そんなドキッとするようなフレーズからはじまる電車内の中吊り広告。趣向を凝らした派手な広告が多いなか、黄緑一色の縁取りに、コピーとゆるいイラストだけを使ったシンプルなデザインが一際異彩を放っています。
軽い気持ちで続きを読めば、普段何気なく見ている広告や“モノを買う”という行為に一石を投じ、人間の購買行動に目を向ける「消費者行動論」という学問があるのだと教えられます。
「和光3分大学」と名付けられたそれは、3分ほどで読めて多様な気づきを得られるユニークな電車広告。
2008(平成20)年から12年以上続いている点でも異色です。
「もともとは学生募集用に制作されました。ヒントになったのが、中学受験の問題を出す塾の広告です。電車を利用される方が身近に感じられるテーマで、学びとは何か、学ぶことが人生にどう関わるのか、学びの意義、面白さを伝えることをコンセプトにしています。現在、年間4~5種類を制作し、小田急線車内に2カ月間ずつ掲出しています」
そう教えてくれたのは、入試広報室入試広報係の瓜生こずえさん。
大学の広告といえば、インパクトのあるコピーと写真で学校のウリをPRしたり、オープンキャンパスの日程を告知したりするものが多い印象です。実際、和光大学の電車広告も、かつてはそうしたデザインだったそうです。それがどのような経緯で「和光3分大学」に生まれ変わったのでしょうか。
「和光大学には個性的で面白い先生がたくさんいます。こんな先生がいて、こんな学びがあるんだよということを、広告を通じて知ってもらいたいと考えました。電車内に掲出することで、地域に開かれた大学であるということを広くアピールする狙いもあります」
(瓜生さん)

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総務企画部入試広報室入試広報係
瓜生 こずえさん

個性豊かで面白い先生と
多様な学びがあることを
広く世の中に発信したい

~個性的な先生を鉄道利用者に紹介したい

和光大学は現代人間学部、表現学部、経済経営学部の3学部に、人文・社会科学系統の6学科を開設し、教鞭を取る教授陣の専門分野もバックグラウンドも多様です。広告の制作は、そのなかから一人を選出するところからスタート。その後、取材を通じて「これだ」と思えるテーマを発掘していきます。制作について、瓜生さんに説明してもらいましょう。
「取材では時間をかけて、先生の話を引き出します。そこから一般の方にも興味を持っていただけそうな話を3つほどピックアップし、具体的なテーマやコピーに落とし込んでいくのです。時事問題が反映されることもありますが、最初からテーマを決めて取材することはしません。なるべくたくさんの先生を紹介したいので、同じ先生が2回登場することもないようにしています」
そうして生まれた「和光3分大学」のテーマは、「ことばと社会の関連性」「子どもの成長と音楽」「発達障がいってなんだろう」「スポーツのルールを変えたら?」「RPG の世界の意外なルーツ」「アートとデザインの違いとは?」「経済学の視点で環境と向き合う」など、多岐に渡ります。
「少数派(マイノリティ)の視点を尊重することに加え、専門家ではない私たちの視点で素直に面白いと思ったことを大事にするように心掛けています。また、あえて文字を小さくすることで、近づいてじっくり読んでもらえるような仕掛けにしています」(瓜生さん)

~掲出するたび多方面から反響が

「和光3分大学」は学内外からの反響も大きく、前出の“広告についての広告”を掲出した時には、企業から委託研究の申し出があったと言います。
企画室企画係の岡本充弘係長は、「反響の大きさに驚くと同時に、広告の意外な効果を実感した」と話します。
例えば、「オーストラリアのパスポートには性別欄が3つある。」というコピーを使った時は、NHKニュース「おはよう日本」で“気になる広告”として取り上げられ、チェコ出身の写真家を記事にした時には、チェコ共和国大使館がツイートしてくれたそうです。

BILANC23和光学園総務企画部和光3分大学
本文で紹介した“広告のための広告”。掲出は2017年3・4月、解説者は経済経営学部の大野幸子准教授(当時講師)
※クリックすると大きいサイズで表示します。


「インターネットやSNSにアップされたり、他の大学や団体の方から“見ていますよ”と話題にしてもらったりすることもよくあります。これほどの反響があるとは予想していませんでしたが、近隣の鉄道で日常風景として溶け込み、すっかり定着したなという印象はあります。電車に乗ったらつい読んでしまうものとして楽しみにしてもらえているのではないでしょうか」(岡本さん)

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総務企画部企画室企画係 係長
岡本 充弘さん

日常の風景として定着し
多くの反響があるからこそ
今後も続けていく

また、和光大学を志望する高校生の中には、大学の学びが面白いのかどうかよくわからないこともあるでしょう。そうした受験生に対して、瓜生さんはこう言います。
「例えば、あのRPGゲームの主人公は、実は古代の叙事詩に出てくる人物なんだよと伝えると、そこから興味を持ってくれることがある。漫画もアニメも研究材料になるし、自分の身近なことを学びにしてもいい。学びには多様性があることを、電車内広告だけでなく、今後はホームページや大学案内でも伝えられたらと思っています」

~学風の「異質力」を広報で生かしていく

他大学とは違う異色の広告が生まれた背景には、もともと学内に流れていた“人と違うことを良しとする”雰囲気も影響しています。和光大学は、初代学長である梅根悟氏が「大学は自由な研究と学習の共同体」であるという理念を掲げ、1966(昭和41)年に開学しました。以来「小さな実験大学」として、学生の個性と学習の自由意志を尊重し、ユニークな研究者たちと共に学びたいという人々が集う大学であることを目指してきました。
その理念は広報への取り組み方だけでなく、学びの仕組みにも現れています。学部・学科の枠組みを超えて、自分の意志で他学部・他学科の専門科目も受講できる「講義バイキング」、学生と先生の距離が近い「少人数教育」、世の中の常識にとらわれないユニークな授業や研究……。一流でも二流でも三流でもないという「無流大学」としてのあり方を体現しているのです。

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2015年に策定されたUIの「異質力で、輝く。」は各種広報物に掲出。写真は最寄の鶴川駅(提供:和光大学)

創立50周年を迎えた2015(平成27)年には、ユニバーシティ・アイデンティティ(UI)を策定。「異質力で、輝く。」という新スローガンが完成したとき、岡本さんは「これまで脈々と流れてきた学内の空気をしっかり言語化できた」という思いがあったと言います。企画室企画係の岡慧さんが続けます。
「“異質力”というだけではただの変わり者で終わってしまいますが、成果を生み出してこそ、人はそこに価値を見出し、あとに続く人が現れるものです。“異質力”に“輝く”という言葉を組み合わせたことで、そうした大学の意志や姿勢を示せているのではないでしょうか。単なる違いや個性を良しとするだけでなく、他者と協働するため、自分とは違うさまざまな人を受容する柔軟性と、自分にしかない存在感をあわせ持った人材を社会に送り出していきたいと考えています。そうした、他人の異質性を認めることもまた異質力であると思っています」

BILANC23和光学園総務企画部 和光学園
総務企画部企画室企画係
岡 慧さん

違いを受容する柔軟性と、
存在感を持った人材を
社会に送り出す一歩に

「和光で自分のやりたい学びを見つけ、入学後にめざましく成長する学生がたくさんいます。これからも電車広告を通じて個性豊かな教員をアピールすることで、ユニークな大学だと感じてくれた学生が入学してきてくれると嬉しいですね」(瓜生さん)
他者との違いを自己の強みとして受容し、昇華し、発信することにより、新たな学生を取り込んでいく。大学の文化というものは、そのようにして受け継がれ、醸成されていくという好例だと言えるのではないでしょうか。

※ 私立大学退職金財団では、教職員の皆様にスポットをあてた「未来を拓く学校人」の情報を募集しています。掲載をご希望の維持会員は、当財団までご連絡ください。

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