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懲戒解雇や諭旨解雇とした職員への退職金の支給制限

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やむを得なく懲戒解雇や諭旨解雇とした職員について、
退職金はどうすれば良いのでしょうか。
第4回目の法律ワンポイント講座では、懲戒解雇・諭旨解雇と退職金の関係について、
立﨑・小林法律事務所の小林誠弁護士に聞きました。

不支給とするには、規定でその旨明記されていることが大前提。
ただし、懲戒解雇等が正当と認められていても
支払いを命じられるケースはあります。

BILANC14小林先生 立﨑・小林法律事務所 弁護士
小林 誠氏(こばやし・まこと)

~懲戒解雇の場合

懲戒解雇とは、秩序違反に対する一種の制裁罰としての解雇をいいます。通常は解雇予告も予告手当の支払もせずに即時になされ、また、退職金の全部または一部が支給されないといわれています。しかし懲戒解雇であれば、当然に、解雇予告手当や予告手当の支払なしに即時解雇できる訳ではありませんし、退職金の全部または一部の不支給が認められる訳でもありません。前者については、労働基準法20条1項ただし書、同条3項、19条2項、119条1号を参照していただくとして、ここでは後者について説明します。
退職金の全部または一部の不支給が認められるためには、退職金規程などでその旨定められていることが必要です(なお、労働基準法89条3号の2)。ただし、この定めがあっても、ただちに退職金の全部または一部の不支給が認められるわけではありません。多くの下級審裁判例は、「それまでの勤続の功労を抹消または減殺するほどの著しい背信行為」があった場合にのみ、これが認められるとしています(大阪高判昭和59年11月29日労働判例453号156頁の円満退職でないときは退職金を支給しない旨の規定に基づき退職者に退職金を支給しなかった事例、東京地判平成6年6月28日労働判例655号17頁の懲戒解雇された者には退職金を支給しない旨の規定に基づき懲戒解雇された者に退職金を支給しなかった事例‐懲戒解雇は重きに過ぎるとされたなど)。退職金は、功労報償的な性格とともに、賃金の後払い的な性格をもあわせ持っているからです。
どのような場合がこれに当たるかについては、個々の事例ごとに判断するほかありませんが、注意しておかなければならないのは、懲戒解雇が有効とされた場合であっても、退職金の全部または一部の不支給が認められないケースが存在するということです(名古屋地判昭和47年4月28日判例時報680号88頁、東京地判平成14年11月15日労働判例867号5頁など)
なお、退職後に「それまでの勤続の功労を抹消または減殺するほどの著しい背信行為」が発覚することがあります。この場合、懲戒解雇はできませんから、懲戒解雇が行われた場合だけでなく、懲戒解雇に相当する事実が存在する場合にも退職金の全部または一部の不支給(または返還)をなしうる旨の定めを置いておく必要があります。

~諭旨解雇の場合

次に、諭旨解雇のケースを見てみましょう。諭旨解雇とは、一般的に、本人に反省の情が認められる場合、本人に説諭して解雇するものをいい、懲戒解雇より若干軽い懲戒処分です。「諭旨退職」と呼ばれるものもありますが、これは、退職願の提出を勧告し、即時退職を求める懲戒処分です。この勧告に対し、所定期間内に退職願の提出に応じない場合は、懲戒解雇とする例が多いようです。なお、諭旨退職も懲戒処分にほかなりませんから、労働契約法15条によって、その有効性が判断されることになります。
では、諭旨解雇や諭旨退職の場合に退職金の全部または一部の不支給は認められるでしょうか?これが認められるためには、やはり、退職金規程などに、諭旨解雇や諭旨退職の場合に退職金の全部または一部を不支給とする定めがなされていることが必要です。懲戒解雇について不支給の定めがあったとしても、諭旨解雇や諭旨退職について、これを適用することはできません。また、この定めがあったとしても、「それまでの勤続の功労を抹消または減殺するほどの著しい背信行為」があった場合でなければ退職金の全部または一部の不支給が認められないことは、懲戒解雇の場合と同様です。

参考判例:
痴漢行為で逮捕された職員を懲戒解雇し、退職金を不支給に。果たして判決は?

今回の解説では、「懲戒解雇=退職金の全額不支給」と規定した場合に、裁判で懲戒解雇が有効とされても、退職金の全額不支給が認められない場合があると説明しました。このような事態を避けるためには、各維持会員の規定に、懲戒解雇の場合に全部または一部の不支給とすることや、懲戒解雇では全部不支給として、諭旨解雇の場合には、処分の重さに応じて一部不支給とするなど、学校独自に「事案に応じた柔軟な選択」が可能な規定を定めると良いでしょう。
ご紹介するのは、鉄道会社に勤務する勤続20年の職員が、痴漢行為により逮捕、略式起訴され、罰金刑を受けたのち、再び痴漢行為により逮捕、正式起訴され有罪判決を受けたことから、就業規則の懲戒条項に基づき懲戒解雇されたという事案です。そして退職金規程の不支給条項により、退職金が不支給とされました。この職員はこれに対し、処分が重すぎるとして、懲戒解雇の無効と退職金の支払いを求めました。判決では、
①懲戒解雇については、職員の立場や事件の半年前に同様の痴漢行為で罰金刑に処せられ、始末書を提出していることなどから、やむを得ない。
②退職金については、一部(3割)を支給すべき。
と判断されました。まずは、退職金の支給制限は、退職金が功労報償的な性格をもつことによるものですが、退職金は賃金の後払い的な性格ももち、退職後の生活保障という意味合いももっていると判断されました。その上で本件の懲戒事由は、職務外の痴漢行為であり、また、業務上の横領ほどの背信行為ではなく、職員の勤務態度や生活設計などの諸事情を考慮すると、賃金の後払い的な要素を含む退職金を不支給とするほど、決定的な影響をおよぼすような事情とは認めがたいとされました。

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