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採用難の時代こそ、正しい労務管理が求められる:知っておきたい、労務の“いろは” 勤怠管理編【第3回】

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特集企画

Date: 2026.07.24

BILANC Online “採用難の時代こそ、正しい労務管理が求められる

構成:桑原奈穂子 
撮影:神出 暁 
編集:プレジデント社

採用難の時代こそ、正しい労務管理が求められる

本連載第1回ではそもそもなぜ勤怠管理が必要なのかといった基礎知識をお伝えし、第2回では記録・収集した勤怠データの活用法などについて解説しました。少子化に伴う採用難が進む今、適切な労務管理は大学にとってますます重要な課題となっています。最終回となる今回は、勤怠管理をはじめとした労務管理を怠ることで起きる問題とその対応策などについて、石嵜・山中総合法律事務所 代表弁護士の山中健児氏に伺います。
 

前回の記事はこちらからご覧いただけます。
「勤怠データ」を踏まえた、透明性の高い職場づくり:知っておきたい、労務の“いろは” 勤怠管理編【第2回】

BILANC Online 採用難の時代こそ、正しい労務管理が求められる 石嵜・山中総合法律事務所 代表弁護士
山中 健児 氏(やまなか・けんじ)

人事労務問題を専門とする弁護士。使用者側の労働法分野で25年以上にわたり、企業や学校法人の労務トラブル対応に従事。一般社団法人私学労務研究会でセミナー「私学管理者のための労働法の基礎・実務」の講師を務めるなど、私立学校の労務に深く携わる。専修大学法科大学院客員教授。主な著書に『労働関係ADRに必要な「民法」を学ぶ』(日本法令)など。

是正勧告の内容で特に多い「二大リスク」

勤怠管理をはじめとした労務管理を怠ると、さまざまな問題が起こります。特に多いのは、労働基準監督署の臨検(立ち入り調査)で法令違反を指摘され、指導や是正勧告を受けるケースでしょう。

臨検の是正勧告で特に多い内容は、賃金未払い残業、いわゆるサービス残業の指摘です。未払い残業代が発覚すると、最大3年分の未払い残業代の支払いと労働時間の適切な管理体制の改善が求められます。

また、36協定を締結する際は、労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組合)がある場合はその労働組合、過半数組合がない場合は労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)と書面によって協定を結ばなければなりません。

ところが、例えば、民主的な方法をとらずに労働者の1人に署名させていた場合などは、過半数代表者の選出プロセスの不備を指摘されることがあります。選出方法に不備があると、締結された36協定そのものが無効となるリスクがあるためくれぐれも注意しましょう。

臨検は「改善のチャンス」と捉える

労働基準監督署の臨検への対応の鉄則は、「嘘をつかない」「記録を改ざんしない」ことです。求められた書類を正確に提示し、事実を正直に説明するなど、誠実な対応を心がけましょう。不誠実な対応はかえって信頼を損ね、調査が厳しくなるだけでなく、悪評が広がる事態を招きかねません。

調査の結果、違法とまでは言えないものの改善が望ましい場合は指導票が、法令違反が認められる場合は是正勧告書が交付されます。

いずれも、法的拘束力は伴いませんが、企業・団体はその内容を精査し適切に対応・改善する必要があります。是正勧告に従わない場合は、現認された法令違反の事実に基づいて送検されることもあるため、注意が必要です。

是正勧告書が交付されたら、企業・団体は指定された期日までに是正措置を講じ、労働基準監督署に是正報告書を提出します。是正報告書により現在は指摘された法令違反が解消されていることが確認できれば、基本的にはそれ以上労働基準監督署から追及されることはありません。

とはいえ、労働基準監督署からの指導や是正勧告をむやみに恐れるのではなく、むしろ労務管理にまつわる重大なトラブルや法的罰則を未然に防ぐためのチャンスと捉えることが大切です。

むしろ、それを機に就業規則や勤怠管理などを見直し、さらに働きやすい職場づくりに取り組みましょう。

BILANC Online “採用難の時代こそ、正しい労務管理が求められる

初動を誤らない。労務トラブルへの正しい向き合い方

勤怠管理をはじめとした労務管理を怠ることは、働く人やその家族とのトラブルを引き起こすリスクも伴います。例えば、職員がタイムカードで退勤の打刻をした後もそのまま業務を続けていた、いわゆるサービス残業を行っていたという事例を考えてみましょう。

このような事例を紹介すると、「なぜその職員は、わざわざ退勤打刻をしたうえで仕事を続けるのだろう」と思うかもしれません。しかし、職員の中には、業務完遂までに時間がかかるのは自分のスキル不足が原因だと考え、残業代がほしいわけでもなく、ただ時間がかかることをとがめられたくない――そうしたまじめな気持ちや、自分の力量に対する否定的な評価を避けたいという自尊心からサービス残業を選んでしまう人もいるのです。

しかし、その選択は本人にとっては苦痛ですし、一方の使用者にとっては法令違反に当たるという、お互いにとって好ましくない状況になってしまいます。

このような場合の対応について決まった正解はありませんが、まずは教育指導を行って職員の成長を促し、必要に応じて配置転換等を行うことで他の業務への適性を見極めることが必要でしょう。

一方、特に大学などでは仕事に対する意識が高いがゆえに業務過多となり、結果的に長時間労働になってしまう職員もいます。この場合も、「本人がやりたくてやっているのだからいいだろう」などと無関心でいてはいけません。

もちろん法令に抵触するリスクがありますし、もし職員がうつ病を発症したり過労死したりした場合、本人やその家族から大学の責任を追及されることとなります。そうならないためにも、大学は強い意志をもって長時間労働の是正に継続的に取り組む必要があるでしょう。

BILANC Online “採用難の時代こそ、正しい労務管理が求められる
労務トラブルは初動が肝心だと、山中健児氏は語る。

一人ひとりの「当事者意識」が良い組織づくりの近道

少子化や採用難が進む今、大学は教職員一人ひとりが力を発揮できる職場環境を整備していく必要があります。そのためには、各教員の属人的な実践に委ねるのではなく、教職員が一丸となって組織改革を進めていくことが欠かせません。その際、業務量が過度に増えないよう、業務効率化と並行して進めることが重要です。

まずは、勤怠データを活用して過重労働や長時間労働などの課題を把握しましょう。そのうえで、各部署で業務の棚卸しを行い、不要な業務の削減や繁忙期の人員補充といった対策を講じます。こうした積み重ねが、教職員にとって真に働きやすい職場環境につながるのです。

さらに、少子化が進む今、私立大学にはカリキュラムや組織のあり方を社会のニーズに合わせて変えていく姿勢も求められます。組織が変わる過程では、教職員の働き方や役割にも変化が生じるため、現場との密なコミュニケーションを欠かさないことが、トラブル予防の観点からも重要です。

そうした改善の取り組みは、外部のコンサルタントなどに任せるのではなく、その大学に長く在籍している現場の管理職の方たちが、当事者意識をもって主体的に進めていくべきだと考えます。自分たちの組織をよりよく変えていけるのは、その組織のことを一番よく理解している人たちだからです。また、ルールは形だけのものではなく、現場の意見を聞きながら、実効性のあるものへと常に磨いていく姿勢も欠かせません。

組織を支えている方、将来を担う方――そうした一人ひとりが決して他人事と捉えるのではなく、当事者意識をもって率先して動き、継続的に取り組んでいくことで、より働きやすい職場環境が実現します。それは、人材の定着につながり、人事の仕事そのものにもやりがいをもたらすでしょう。そして、大学が選ばれる存在であり続けるための、確かな土台となるはずです。

前回までの記事はこちらからご覧いただけます。
「勤怠管理は何のため?」働く人と組織にとっての意義とは:知っておきたい、労務の“いろは” 勤怠管理編【第1回】
「勤怠データ」を踏まえた、透明性の高い職場づくり:知っておきたい、労務の“いろは” 勤怠管理編【第2回】

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