「勤怠データ」を踏まえた、透明性の高い職場づくり:知っておきたい、労務の“いろは” 勤怠管理編【第2回】
特集企画Date: 2026.07.17
構成:桑原奈穂子
撮影:神出 暁
編集:プレジデント社
「勤怠データ」を踏まえた、透明性の高い職場づくり
前回は、働く人や組織にとっての勤怠管理の意義、「働き方改革関連法」施行によって設けられた時間外労働の上限規制などについてお伝えしました。連載第2回となる今回は、大学における勤怠管理の具体的な手法、記録・収集した勤怠データの活用法、勤怠管理が教職員の定着に及ぼす影響などについて、石嵜・山中総合法律事務所 代表弁護士の山中健児氏に伺います。
前回の記事はこちらからご覧いただけます。
「勤怠管理は何のため?」働く人と組織にとっての意義とは:知っておきたい、労務の“いろは” 勤怠管理編【第1回】
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石嵜・山中総合法律事務所 代表弁護士 山中 健児 氏(やまなか・けんじ) 人事労務問題を専門とする弁護士。使用者側の労働法分野で25年以上にわたり、企業や学校法人の労務トラブル対応に従事。一般社団法人私学労務研究会でセミナー「私学管理者のための労働法の基礎・実務」の講師を務めるなど、私立学校の労務に深く携わる。専修大学法科大学院客員教授。主な著書に『労働関係ADRに必要な「民法」を学ぶ』(日本法令)など。 |
勤怠管理は「客観的な記録」が原則
大学には、教授や准教授、専任講師、助教、助手、非常勤講師といった教員のほか、常勤職員、契約職員、パートタイムなどの非常勤職員など、さまざまな職種の方がいます。このうち教授や准教授などには専門業務型裁量労働制が導入されているケースが多いため、実労働時間の把握を前提とした勤怠管理の対象となるのは主に職員の方々でしょう。
勤怠管理について、法律では労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録することを義務付けています。その具体的な方法は多岐にわたりますが、厚生労働省のガイドラインでは、タイムカードやICカード、PCログなど客観的(機械的)な記録を基礎として確認することとしています。
把握方法そのものは、自校に合った便利なものを選べばよいでしょう。大事なのは、始業・終業時刻を正確に把握できる仕組みを整えることです。
注意したいのは、自己申告制による把握です。労働時間の自己申告制は、厚生労働省のガイドライン上は、客観的記録に基づく方法と比べてリスクが高く、原則的な把握方法とはされていません。
やむを得ず自己申告制で労働時間を把握する場合も、自己申告した労働時間とPCログ等から把握した在社時間との間に著しい乖離がある場合は、実態調査を実施し、労働時間の補正を行うなどの措置が必要です。
実際、自己申告では9時始業・18時終業となっているのに、PCログを見ると20時に電源をオフにしている、というケースもあります。自己申告制は、こうしたサービス残業の疑いが生じやすいのが難点です。サービス残業は未払い残業代の発生にもつながり、行政指導の対象にもなります。そうしたリスクも念頭に置いたうえで、自校の状況に合った方法を選択することが大切でしょう。

勤怠データを「職場改善のヒント」に活用する
記録・収集した勤怠データは、定期的に確認・分析しましょう。まずは、勤怠データが本当に実態を反映した記録となっているか確認します。前述のようなサービス残業の疑いがあるケースがないか、注意して見るべきポイントです。
そのうえで、残業時間が36協定で定めた法定時間外労働の限度時間数や法定休日労働の限度日数を超過していないか、また、年間の有給休暇の取得率を踏まえて年休の消化義務が生ずるような状況にはなっていないかなど、法令違反の有無を点検します。違反があれば迅速に対処しましょう。
ここで誤解されがちなのは、サービス残業についての考え方です。「本人が意欲的に自主的に残業した」「本人が望んでやっていた」という場合でも、組織側の責任が問われないわけではありません。使用者が黙認していた場合や、所定時間内では終わらない業務量を課していて残業せざるを得ない状況を作っていた場合には、明確な指示がなくとも黙示の残業命令があったとみなされる可能性があります。
また、もし本人が病気になったり、不幸にも命を落としたりした場合、ご家族の受け止め方は本人の意思とは別に判断されることになります。勤怠記録などの客観的なデータが重視され、未払い残業代の精算にとどまらず、安全配慮義務違反を理由とする損害賠償をめぐるトラブルにつながることもあります。
法令違反がない場合でも、勤怠データを活用し職場環境の改善を図っていくことをおすすめします。勤怠データを分析することで、業務量の多い部署や繁忙期で残業が発生しやすい時期など、部署や時期ごとの課題を把握することができるでしょう。
課題を把握したら、改善策を考え実践していきます。業務量の多い部署ならば、人員を補充する、あるいは不要な作業を削減したり手順を簡素化したりすることで業務量そのものを減らすといった改善策が考えられます。
また、例えば入試の時期に残業が集中しているとしたら、その時期だけパートタイムなどの非常勤職員を補充するといった対策も有効でしょう。
第1回目で述べましたが、勤怠管理は法令を遵守するためだけに行うのではなく、職場環境を整えることで働く人のモチベーションやエンゲージメントを高め、ひいては組織全体のパワーにつなげることを目指して行うものです。
そうした意識を持ちながら勤怠データを定期的に確認・分析し改善を繰り返すことで、よりよい職場環境を整備していただきたいと思います。

勤怠データの活用が職場環境の改善につながると話す山中健児氏。
待遇差をめぐる不満が大学のブランドを揺るがす?
ここからは勤怠管理だけでなく、人事労務管理全般に関わる話になります。2021年4月から、すべての企業・団体に日本版「同一労働同一賃金」とも呼ばれる「パートタイム・有期雇用労働法」が適用されました。
この法律は、正社員(「通常の労働者」)と同視すべきパートタイム・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止と、雇用形態のみを理由とした不合理な待遇差の解消を目的としています。
前述のように、大学にはさまざまな職種や職務内容の方がおり、職務内容に応じて待遇差が生じることは当然あり得るでしょう。また、企業に比べ、職種やキャリアによる序列が明確に存在するのも特徴の一つといえます。
そうした状況下では、「どうしてあの人と自分に待遇差があるのか」「自分はこれだけ頑張っているのになぜあの人よりも待遇が低いのか」といった不満からトラブルになることも考えられます。
現代では、社会的な評判が入学希望者や就職希望者の数を左右するため、組織へのエンゲージメントは高いほうが望ましいといえます。反対に、人事労務管理にまつわるトラブルは大学のブランドイメージを大きく失墜させ、入学希望者や就職希望者の減少といった事態にもつながりかねません。
そういう意味で、大学は他業種と比べても勤怠管理をはじめとする人事労務管理の重要性が高い業種だといえます。
人事労務管理に関する積極的な情報発信を
では、上記のような人事労務管理にまつわるトラブルを防ぐにはどうしたらよいのでしょう。
もっとも重要なのは、人事総務部長など関係部署をはじめとした現場の管理職が、自校の就業規則等に基づき、「なぜその待遇なのか」という具体的な理由を説明できることです。
その際、画一的なやり方を一方的に押し付けるような姿勢には注意が必要です。私立大学のような多様な人材や働き方が併存する組織では、トップダウンの一律的なマネジメントは現場との軋轢を生みかねません。一人ひとりの自発性を尊重する姿勢と、丁寧なコミュニケーションが欠かせません。
つまり、働き方の多様化が進む今、働き方に応じて待遇の相違を設けることは必要だと考えられますが、その際にはどういう理由で相違が設けられているのかを働く人たちに説明し、一人ひとりの公平感や納得感を高めていくことが何より重要ということです。こうした丁寧なコミュニケーションを積み重ねることで、教職員の不満や誤解が減り、勤務先へのエンゲージメントの向上にもつながっていくでしょう。
これからの時代、大学には人事労務管理に関してより積極的に情報を発信していく姿勢が求められるといえるでしょう。
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次回は、勤怠管理をはじめとした労務管理を怠ることで起きる問題とその対応策などについて、詳しくお伝えしていきます。
前回の記事はこちらからご覧いただけます。
「勤怠管理は何のため?」働く人と組織にとっての意義とは:知っておきたい、労務の“いろは” 勤怠管理編【第1回】

