「勤怠管理は何のため?」働く人と組織にとっての意義とは:知っておきたい、労務の“いろは” 勤怠管理編【第1回】
特集企画Date: 2026.07.03
構成:桑原奈穂子
撮影:神出 暁
編集:プレジデント社
「勤怠管理は何のため?」働く人と組織にとっての意義とは
人材確保や働き方改革が課題となる中、労務管理の重要性はますます大きくなっています。就業規則や雇用契約書の作成、勤怠管理、給与計算など、その業務を通じて働きやすい職場づくりを推進することが、いま組織に求められています。そして、それは従業員一人ひとりの力を最大限に引き出し、組織全体の生産性やチーム力といった“組織の総合力”の向上につながる重要な取り組みでもあります。
そこで、本連載では押さえておきたい労務管理の基本をわかりやすく解説します。 初回のテーマは「勤怠管理の必要性」。今回は、そもそもなぜ勤怠管理が必要なのか、2019年に施行された「働き方改革関連法」によってどのようにルールが変わったのかなどについて、石嵜・山中総合法律事務所 代表弁護士の山中健児氏に伺います。
![]() |
石嵜・山中総合法律事務所 代表弁護士 山中 健児 氏(やまなか・けんじ) 人事労務問題を専門とする弁護士。使用者側の労働法分野で25年以上にわたり、企業や学校法人の労務トラブル対応に従事。一般社団法人私学労務研究会でセミナー「私学管理者のための労働法の基礎・実務」の講師を務めるなど、私立学校の労務に深く携わる。専修大学法科大学院客員教授。主な著書に『労働関係ADRに必要な「民法」を学ぶ』(日本法令)など。 |
勤怠管理の目的の1つは「法令遵守」にあり
そもそも、勤怠管理はなぜ必要なのでしょう。さまざまな観点があると思いますが、私は主に2つのことを挙げたいと思います。まず1つは、私立大学などの「使用者」は、組織として法令を遵守する必要(義務)があるということです。
ご存じのように、労働基準法は以下のように定めています。
・使用者は、休憩時間を除き、1日について8時間、1週間について40時間を超えて労働させてはならない(第32条「(法定)労働時間」)。
・使用者は、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を、労働時間の途中に与えなければならない(第34条「休憩」)。
・使用者は、労働者に対して毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない(第35条第1項「休日」)。
上記の法定労働時間を超えて残業や休日出勤を命じる場合は、労使間で書面による「時間外・休日労働に関する協定」を締結し、あらかじめ所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。「時間外・休日労働に関する協定」は労働基準法第36条に規定があるため、「36協定(サブロク協定)」とも呼ばれます。
なお、法定休日に労働させるには、この36協定を締結・届け出た範囲内で休日労働を命じる必要があります。また、法定時間外労働、法定休日労働、深夜労働を行わせる場合には、それぞれ割増賃金の支払いが求められます。 こうした法令上の義務を果たすためにも、組織は働く人の勤怠についてしっかり把握・管理する必要があるのです。

石嵜・山中総合法律事務所 代表弁護士の山中健児氏
働く人のモチベーション向上にも寄与
勤怠管理の目的にはもう1つ、働く人のモチベーションや組織へのエンゲージメント向上を図るといったポジティブな側面もあると私は考えています。
組織全体のパワーを高めるには、共通のルールを定め、それを働く人たちに守ってもらうなど職場環境を整えることが重要となります。9時始業・18時終業といったルールを策定し、それに基づいた勤怠管理を行うのも職場環境整備の一環です。
例えば、勤怠管理がずさんで、ある人はルールを破っても許され、ある人は厳罰に処されるとどうなるでしょうか。不公平感が生じ、ルールが形骸化します。働く人のモチベーションやエンゲージメントは低下し、ひいては優秀な人材が組織を離れるリスクも高まります。
結果として、組織全体のパワーを引き下げることにもなりかねません。
一方、適切な勤怠管理に基づき公平に対応し、全員にルールを守ってもらうことで、働く人の意欲は高まり、組織への信頼も生まれます。それは結果的に、組織のトータルパワー向上にもつながっていくでしょう。つまり、適切な勤怠管理は働く人にも組織にもメリットをもたらすのです。
「働き方改革関連法」施行を受け、求められる対応とは
2019年に施行された「働き方改革関連法」で、勤怠管理に大きな変更がありました。特に大きいものが、時間外労働の上限規制です。それまで労働大臣(当時)の告示で定められていた時間外労働の上限が、新たな上限規制ルールとともに労働基準法に明記され、罰則付きで規制されるようになりました。
「働き方改革関連法」施行以前は、時間外労働の上限は法律で定められていませんでした。しかし施行後は、36協定を締結している場合でも、原則として月45時間・年360時間が上限となります。臨時的な特別の事情がない限り、これを超えることはできません。
なお、臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、以下の上限が定められています。
・年720時間以内
・ 2~6か月の平均が全て80時間以内(休日労働を含む)
・月100時間未満(休日労働を含む)
また、原則である月45時間を超えることができるのは、年間6カ月までです。
そして、上記の時間外労働の上限を超えた場合は、労働基準法違反として6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科せられることとなったのです。
中学校や高校の教員の長時間労働が社会問題となって久しいですが、長時間労働は教員という職種全般に共通する課題です。大学の教員も例外ではありません。教育や研究のほか、大学運営に関する各種会議への参加、試験の採点・監督などの管理・運営業務も担うため、長時間労働になる傾向があります。
しかし「働き方改革関連法」施行後は、こうした教員を含む全教職員が長時間労働をせずに業務を完遂できる体制づくりが求められるようになりました。そのために“組織として”、適切な勤怠管理や業務効率化に取り組んでいくことが重要です。

実効性のある体制づくりに向けて
適切な勤怠管理や業務効率化を実現するためには、自校の就業規則や36協定の内容などを現場の管理職の方々が理解することが重要です。
なぜなら、そうした書類は整備されていても、その内容を関係者が十分に理解していないがために、適切な勤怠管理ができていないことが往々にしてあるからです。
また、長時間労働は理由を問わず許されないものであるという認識を、管理職を含めた組織全体で共有する必要があります。優秀な人もそうでない人も、成果の有無にかかわらず、同じです。
あわせて、話題になって久しい「同一労働同一賃金」にも注意が必要です。組織には、無期雇用・有期雇用・パートタイムといった雇用形態ごとの業務内容や責任の違いによって生じる待遇差について、労働者から求めがあった場合に説明する義務があります。使用者は、雇用形態の違いのみを理由とした不合理な待遇差を生じさせないようにするとともに、待遇の内容やその性質・目的を具体的に説明できなければならないのです。
使用者には、就業規則を労使ともに正しく理解し、いつでも説明できる状態を整えることが求められます。これは、人事労務管理を担う立場として常に意識しておきたい視点です。
長時間労働を防ぐために労務管理として行うべきことは、業務の棚卸し、リスクの管理、改善の積み重ねを通じて、組織の総合力を高めていくことです。まずは、現場の管理職の方々が就業規則や労使協定などの内容をしっかり理解しましょう。そうすることで初めて、部下に対して実効性のある勤怠管理ができるようになるのです。
同時に、これまでどのような業務にどれだけの時間がかかっていたかを洗い出しましょう。そのうえで、例えば、1つの業務を1人で10時間かけて終わらせるのではなく、複数人で分担して7時間で完了させる。あるいは、不要な作業を削減して業務量そのものを減らす。こうした工夫で時間外労働をいかに抑えるか、組織全体で取り組むことが大切です。
◆ ◆ ◆
勤怠管理編の第2回目は、大学における勤怠管理の具体的な手法、記録・収集した勤怠データの活用法、勤怠管理が教職員の定着に及ぼす影響などについて、具体的にお伝えしていきます。

