実は経営層こそ、AIに向き合うべき理由:「人事・労務」を変えるAI活用最前線【第6回】
特集企画Date: 2026.06.26
構成:八色祐次
撮影:神出 暁
編集:プレジデント社
実は経営層こそ、AIに向き合うべき理由
連載最終回となる今回のテーマは、「AI活用を成功させる組織の在り方」です。これまで5回にわたり、人事業務にAIをどう活かすかを考えてきました。最後に取り上げたいのは、「誰がAI活用に取り組むべきか」という、組織的な視点です。実は、ここを間違えると、せっかくのAI活用も中途半端に終わってしまいます。人事図書館の館長である吉田洋介氏に、AI活用の落とし穴と乗り越え方を伺いました。
前回の記事はこちらからご覧いただけます。
人事評価の「納得感」を高めるAI活用法 :「人事・労務」を変えるAI活用最前線【第5回】
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人事図書館 館長 吉田洋介
2007年立命館大学大学院政策科学研究科卒業。新卒で、リクルートマネジメントソリューションズに入社。
国内外500社以上の採用、人材開発、組織開発、人事制度等に関わり、支社長・事業責任者等を歴任。 2021年に独立し、株式会社Trustyyleを設立。 2024年4月に東京・人形町に1,000冊以上の人事関連書籍を備えた「人事図書館」をオープン。 |
とりあえず「若手に任せておこう」は赤信号
これまで5回にわたり、人事業務にAIを活用する方法についてお話ししてきました。これを読んで「早速取り組んでみよう」と思ってくださったのであればうれしく思います。
ただ、もしあなたが部長やマネージャーなどマネジメントを担う立場で、「AIは、今どきの技術に抵抗のない若手に任せてみよう」と考えているなら、いったん立ち止まっていただきたいのです。
それはなぜか。AI活用に取り組むのは、責任者クラスや経営者自身であるべきだからです。
まず、管理職が「業務の全体設計」を担う
たとえば、人事評価にAIを使う場合、「AIに任せるべき業務」と「人間が自ら行うべき業務」があると、第5回目でお話ししました。こうした業務の切り分けは、経験の浅い若手には荷が重いでしょう。
これができるのは、最低でもアサイン権限のある立場の人です。仮に若手に任せると、目標管理のスプレッドシートをAIで全員分つくれるようになっただけで終わってしまいかねません。
人事業務の全体像や課題感を深く理解できていないため、AIを使って人事評価業務全体を再構築するところまで思考が広がらず、「目の前の作業を速くする」発想にとどまってしまうのです。加えて、AIはものすごいスピードで進化しています。
たとえば、営業の世界では、アポイント取りから商談メモ、議事録作成、次の提案・アポイント取りまで、ほぼすべてをAIで自動化している企業も出てきました。営業担当者は、お客さまとの関係構築という、AIでは代替できない領域に集中することができるようになっています。
AIの進化に合わせて任せる業務を再考し、柔軟に運用を変えていく判断は多くの若手には難しいもの。だからこそ、組織内の意思決定層が自らAIを活用し、体感覚を持って関与する必要があるのです。
とはいえ、実際には人手や時間の都合で、若手に任せてしまうケースも少なくないでしょう。
その場合は、ただ任せるのではなく、「意思決定をしている層が何を基準にしているのか、何を大切にしているのか、何をガイドラインにするのか」——組織内のAI活用ガイドラインを明確に示していきましょう。
そして何より、応援する立場として、若手をサポートする姿勢を忘れないようにしましょう。

AIの情報はすべて正しい?
AIを業務で活用する際、必ずといっていいほど課題になるのが、「ハルシネーション」です。AIが事実とは異なる情報や根拠のない内容を、あたかも正しい事実であるかのようにアウトプットする現象を指します。
事前に「根拠を必ず示す」「わからないことはわからないと答える」といった条件を設定することで、ある程度は防げます。
ただし、ハルシネーションを完全にゼロにすることはできません。AIには完璧が求められがちですが、私の感覚では「人間よりよっぽどマシ」という程度。
間違えることはあるのです。だからこそ、それを前提に人間が品質管理を行い、アウトプットに責任を持つことを明確にしておくことが大切です。
人事業務にAIを使う場合は、もう一つ気をつけたいことがあります。極力個人情報を入力しないこと。どうしても必要な場合には匿名化処理を加えて必要最小限の情報に絞って入力するようにしましょう。
そして何より大切なのは、「より良い教育に集中するため」「学校教育の本分に充てる時間を創出するため」など、AI活用の目的を明確にしておくことです。

月額2~3万円で「優秀な右腕」が手に入る
世の中には、人事業務をサポートするシステムやSaaSのサービスがたくさんあります。しかし、それらの多くは費用が高く、手が出せずにいた学校もいるのではないでしょうか。
すでに導入していても、自分たちの業務に合わせてカスタマイズするには高額の追加費用がかかるため、活用を諦めていた法人もいるでしょう。自分たちでAIを扱えるようになれば、こうしたコスト問題で諦めていたことの多くを、解決できるようになる可能性があります。
現在、生成AIのサービスは一番上のプランでも月額2~3万円ほど。決して安い投資ではないかもしれません。しかし、月額3万円ほどで24時間働き続ける超優秀な人材を手に入れられると考えれば、検討する余地は十分にあるのではないでしょうか。
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これまで6回にわたり、人事業務におけるAI活用について考えてきました。本連載が、皆さまの組織にとって、新しい一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
前回までの記事はこちらからご覧いただけます。
なぜ、今私立大学等にAIが必要なのか?:「人事・労務」を変えるAI活用最前線【第1回】
「AI迷い人」にこそ知ってほしい、生成AI入門 :「人事・労務」を変えるAI活用最前線【第2回】
“人とAIの融合”で、採用はどう変わる? :「人事・労務」を変えるAI活用最前線【第3回】
AIに任せていい仕事、そうでない仕事 :「人事・労務」を変えるAI活用最前線【第4回】
人事評価の「納得感」を高めるAI活用法:「人事・労務」を変えるAI活用最前線【第5回】
