将来設計のために知っておきたい「退職金制度」のこと
復習講座Date: 2026.06.05
構成:村山京子
撮影:野瀬勝一
編集:プレジデント社
将来設計のために知っておきたい「退職金制度」のこと
物価上昇が続くなか、老後資金への関心はこれまで以上に高まっています。「年金だけでは不安」「NISAやiDeCoも始めたほうがいいのでは」と考える方も多いでしょう。そうしたとき、あわせて確認しておきたいのが、勤務先の退職給付制度です。
退職給付には、退職時にまとまった資金を受け取る「退職一時金」と、退職後の生活を継続的に支える「企業年金」があり、それぞれ役割が異なります。
今回は、企業の人事制度設計を数多く手がけるタナベコンサルティングの藤田奈緒氏に、退職一時金が果たす役割について話を伺いました。
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株式会社タナベコンサルティング HRコンサルティング事業部 エグゼクティブパートナー 藤田 奈緒 氏(ふじた・なお) 人事制度や教育制度の構築支援、企業内講師育成支援、セミナー講師・運営など、人材育成の現場 に幅広く携わる。階層別・テーマ別の教育カリキュラム策定から企業内講師育成・研修運用までを 支援し、中堅・中規模企業の人材育成内製化を実現した経験を多数持つ。人材育成(アカデミー) 研究会のサブリーダーを務め、「業績に直結する教育の効果的な運用」を研究している。 |
退職金制度は、老後の暮らしを支える身近な存在
退職金制度は、将来の生活設計を考えるうえで重要な制度です。にもかかわらず、自分の勤務先にどのような制度があり、どのような条件で受け取れるのかを十分に把握している方は、意外と多くないのではないでしょうか。
「年金だけでは足りないかもしれない」「自分でも備えなければ」と不安を募らせる前に、まず確認しておきたいのが、勤務先の退職金制度です。
退職金には、退職時にまとまった金額を受け取る「退職一時金」と、退職後に分割して受け取る「企業年金」があります。前者は退職時のまとまった支出や生活再設計に役立ち、後者は老後の継続的な生活資金を支える仕組みです。
私立大学退職金財団によると、財団に加入されている全ての学校法人が「退職一時金制度」を採用されています。民間企業でも退職一時金を導入している事例は多く、公務員の水準(目安として、大卒で35年勤務した場合には1,800万~2,000万円程度)を基準に設計しているケースも見られます。
受け取る側にとっては税制面での優遇もあり、安定した制度の中で将来の見通しを立てやすい環境といえるでしょう。
なぜ今、退職金制度を確認する意味があるのか
ここ数年の社会環境の変化を受け、今、改めて退職金が注目されています。
ここ数年の社会環境の変化を受け、企業の報酬設計は改めて見直されつつあります。 物価上昇や賃上げの動きが続くなか、企業は月々の給与だけでなく、退職給付を含めた報酬全体のあり方を再検討する場面が増えています。
実際、弊社にも「自社の退職給付水準は適切か」「人材確保や定着の観点から、どのような設計が望ましいか」といったご相談が寄せられています。
働く側にとっても、NISAやiDeCoの普及を背景に資産形成への関心が高まるなか、勤務先にどのような制度が用意されているのかを確認する重要性は増しています。
公的年金、自助努力、そして勤務先の退職給付制度をどう組み合わせて将来設計を行うか。その視点が、これまで以上に求められているといえるでしょう。
加えて、長寿化により、退職後の生活期間は長くなる傾向にあります。だからこそ、退職金の制度を理解したうえで、自分にとっての備えを考えることが大切です。
退職金制度にはどんな種類がある?
退職後に受け取る資金には、いくつかの種類があります。代表的なものを整理しておきましょう。
まず大きく分けると、退職時に一括で受け取る「退職一時金」と、退職後に分割して受け取る「企業年金」の2つがあります。さらに企業年金には、将来受け取る金額があらかじめ決まっている「確定給付企業年金(DB)」と、毎月の掛け金を企業が拠出し、本人が運用する「企業型確定拠出年金(DC)」の2種類があります。
労務行政研究所の2025年調査によると、退職給付制度を持つ企業のうち、退職一時金を採用している企業は62.5%、確定給付企業年金は48.1%、企業型確定拠出年金は68.1%。複数を組み合わせて運用している企業も多く、学校法人で広く採用されている「退職一時金制度」は、一般企業においても主要な制度のひとつであり続けています。

業種や働き方で異なる、退職金のあり方
退職金に対する考え方は業種によって異なります。製造業や建設業のように長期雇用を前提とする業種では、“長く働くほど報われる”仕組みとして、退職金を活用する傾向があります。これに対し、IT業界など流動性の非常に高い分野では、退職金よりも在籍中の処遇を重視する動きも見られます。
近年は、一つの企業の中で複数の制度を組み合わせるケースも増えてきました。たとえば、長期勤続を前提とする総合職には退職一時金を厚めに設計し、高い専門性を持って短期で成果を出す人材には企業型確定拠出年金(DC)を中心に据える、といった具合です。
働き方が多様化するなか、退職金制度も画一的ではなくなってきているのです。
ただし、業種や働き方が変わっても、人材の定着や従業員の安心感という点で、退職金の役割が重要であることに変わりはありません。
働く側にとって、不透明で予測が難しい世の中では「退職後(老後)の備えがある」という事実は、目先の給与額だけでは得られない安心をもたらします。

経営コンサルタントの藤田奈緒氏
強みは「柔軟さ」と「税制優遇」
退職一時金が今も多くの企業で採用されている理由は、大きく2つあります。
1つ目は、制度設計の柔軟さ。退職一時金は、勤続年数に加え、役職や評価に応じたポイント制などと組み合わせて設計されることが多く、人事制度全体との整合を図りやすい仕組みです。学校法人においても、教職員の処遇や人材方針に応じて設計しやすい点は、大きな特徴のひとつといえるでしょう。
2つ目は、働く側の税制上のメリット。退職一時金として受け取る場合、退職所得控除が適用されるため、給与として受け取るよりも手取り額が大きくなります。
たとえば勤続35年で2000万円を受け取る場合、控除額は1850万円となり、課税対象は大きく圧縮されます。長く勤めるほど控除額も増えるため、長期勤続者ほど恩恵が大きい仕組みになっているのです。

退職一時金と企業年金は、優劣ではなく役割の異なる制度です。そのうえで、学校法人では退職一時金が広く採用されており、教職員にとっても身近で理解しやすい制度であるといえます。
「採用」より「定着」を支える制度
退職金制度は、採用時の訴求材料として強く意識されにくい一方で、入社後の納得感や将来の見通しには影響を与える制度です。
若い世代では、NISAなどとの自助的な資産形成への関心が高い一方、勤務先にどのような制度があるのかを入社後に知るケースも少なくありません。
そのため、退職金制度をわかりやすく示すことは、企業への信頼感や長く働こうという意識につながる可能性があります。つまり、退職金は人を集めるための制度というより、社員を定着させる役割が大きいのです。「長く勤めれば報われる」という確信が、組織への愛着や貢献意欲を育てていきます。
学校法人の教職員のように、知識や経験の蓄積が仕事の質を決める職場では、この効果はとりわけ大きいといえるでしょう。教職員(従業員)が、教育や研究の現場で培ってきた専門性は、組織にとってかけがえのない資産です。退職一時金を含めた処遇全体が、「長く働き続けたい」という気持ちを支える土台となっています。
退職金を知ることは、不確実な未来の安心につながる
BILANC Onlineの読者の多くは、私立大学等にお勤めの方だと思います。一般企業では退職金を各社が個別に運営するケースが多い中、私立大学等には私立大学退職金財団という組織があります。そうした土台があるからこそ、退職金は単なる「将来のお金」以上の安心感を持てるのではないかと思います。
改めてにはなりますが、退職一時金は、長く勤めるほど積み上がっていく仕組み。働く人にとっては、目先の収入だけでは得られない、将来への安心を支える存在といえるでしょう。
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