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口先上司・問題部下を生み出さない魔法の声かけ

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モチベーションの低い部下をうまく動かし、チームのパフォーマンスを上げるとともに、上司からの厳しい要求にも応えるためには、「対部下も、対上司も、突き詰めれば人と人とのコミュニケーションなのだ」と考えるのが得策。ここではコミュニケーションを円滑に進め、部下にも上司にも気持ちよく仕事をしてもらうために欠かせない声かけのテクニックをご紹介します。

構成:田ノ上信 撮影:石橋素幸 編集:プレジデント社

人はホメられるとやる気が出て、仕事の質も高まる
相手のタイプごとに「ホメ言葉」を使い分けましょう

BILANC13「習慣」枝川先生 早稲田大学研究戦略センター教授
枝川 義邦氏(えだがわ・よしくに)
1998年、東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了、博士(薬学)。2007年、早稲田大学ビジネススクール修了、MBA。早稲田大学高等研究所准教授などを経て、2014年から現職。専門とする脳科学の観点で、人と人のコミュニケーションや組織運営などの研究も行う。著書『タイプがわかればうまくいく! コミュニケーションスキル』『「脳が若い人」と「脳が老ける人」の習慣』など。

~部下を注意する前にまずは信頼関係構築を

部下のやる気を上げるためには、フィードバックが大切です。それはホメる時も、注意する時も「なるべく早く」が鉄則。1週間後や1カ月後に言われてもピンとこないからです。
人はホメられたことについては「もう一度やろう」と思うもの。ホメられると、脳の中で報酬系の神経ネットワークが活発化し、ドーパミンという快楽物質が放出され、「もっとやりたい」という意欲が湧きます。当然モチベーションが高くなり、仕事の質は上がります。
しかし仕事では、ホメてばかりはいられないこともあるでしょう。部下の失敗を注意したり指摘した りする時には、どうすればやる気を損なわずに済むのでしょうか。
一つには、「査定と評価は違う」と明らかにすることです。「査定」とは半期や1年ごとに決まるものですが、「評価」は、業務を円滑に進めるためのPDCAサイクル(Plan=計画、Do=実行、Check=評価、Action=改善を繰り返すこと)に組み込まれているので、短期間に何回もやってきます。査定が悪いと給料に響きますが、評価は悪かったら改善すれば済む話。査定と評価をごっちゃにした状態では、注意する側も気が引けるし、注意される側は最後通牒のように感じてしまい、お互いに腹を割って話すことができません。
また、どんな部下でも、信頼している上司の言うことは素直に聞くものです。あなたが上司なら「部下に関心がある」という日常的なアピールで信頼関係が少しずつ深まると、脳の中でオキシトシンというホルモンが出ます。これは「信頼ホルモン」「愛情ホルモン」ともいわれており、このような状態で信頼関係が強固になり心のつながりができると、いいメッセージはもちろん、注意や指摘でもその真意が伝わりやすくなります。信頼関係さえ築けていれば、お互い「口先上司」「問題部下」にならずに済むというわけです。

~社長タイプに「さすがです」は禁句

脳の仕組みがわかったところで、具体的な声かけ方法について説明しましょう。
上司と部下のコミュニケーションは、基本的には日常的な声かけの上に成り立っています。しかしお互いに、声をかけやすい相手もいれば、そうでない相手もいるでしょう。人にはいろいろなタイプがいるので、これは当然のことです。それでも相手のタイプを理解しておくと、コミュニケーションが取りやすくなります。「ソーシャルスタイル」という、1970年代に社会学者のデイビッド・メリルらが提唱した理論がそれです。自己主張と感情表現の強弱で、人を4つのタイプに分類します(図)。

BILANC13「習慣」枝川先生図表
『タイプがわかればうまくいく! コミュニケーションスキル』
(谷 益美・枝川義邦著、総合法令出版)の内容をもとに編集部作成


第1が、自己主張が強く、感情表現は弱い「社長タイプ」です。グイグイ引っ張っていき、指図されるのは大嫌いです。2番目は、自己主張も感情表現も強い「アイデアマンタイプ」。何ごとも楽しんでノリを重視します。3番目は自己主張が弱く、感情表現は強い「いい人タイプ」。協調性があり穏やかで、みんなのためにがんばります。最後が、自己主張も感情表現も弱い「職人タイプ」で、やるべきことを正確かつ計画的に進めます。4つのタイプには、それぞれ言ってほしい言葉とNGワードがあります。相手がどのタイプか知ることができれば、対人関係でのボタンのかけ違いは少なくなります。
たとえば、職人タイプの部下に仕事を頼む時は、「この計画に沿って進めてくれ」と説明し、その通りにできたら「完璧だね」とホメるとよいでしょう。
一方、プロジェクトが成功した時に、社長タイプの上司に「すごいですね、さすがです」と言うのは、実はNG。このタイプは他人から評価されるのを嫌うため、「私も○○部長を見習います」と言うのが効果的です。

~自分を前向きにする「あえて」の一言

ただ、ソーシャルスタイルで注意してほしい点が2つあります。1つは、相手のタイプを決めつけて、「だから合わない」「苦手だ」と切り捨てないこと。相手を分析・理解して、自分の対応をどう変えればうまくいくのかを考えることが大事です。
2つ目は、相手を枠にはめすぎないこと。人はそう単純ではなく、4つの傾向があるとはいえ、ほとんどの人は複合型ですし、場面によって態度も変化します。したがって、相手に合わせて自分がベストな対応をとるように努力することが大切です。最後に、自分自身への声かけもご紹介します。たとえば、部下のミスを尻拭いするハメになったり、上司から無理難題を押しつけられたりすると、仕事のモチベーションは上がりませんよね。そんな時のマジックワードは「あえて」です。いやな仕事でも、いま自分は自己成長のために「あえて」この仕事に取り組んでいるんだと考えると、気持ちが楽になります。同じ仕事でもネガティブにとらえるのか、ポジティブにとらえるのかで、過程も結果も大きく変わります。
もちろん限度はありますが、「やらされている」のではなく、その仕事を「自分がコントロールしている」という感じを持てると、心理的にも楽になれるでしょう。「乗り越えたら成長している」と思えればドーパミンも分泌され、一層や る気が増します。自分の気持ちのマネジメントに有効な言葉として、おすすめします。


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