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AIへの向き合い方が今後の大学の在り方を左右する

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急速にメディアへの登場回数を増しているAI。その技術は、まさに日進月歩ならぬ"秒進分歩"の勢いで私たちの生活に取り入れられています。車の自動運転のみならず、医療画像の診断や株式投資、昨年には「今夜何を作ろう」と話しかけると、献立を提案してくれる電子レンジまで登場しました。日本におけるAI元年になるとされる2020年まであと数年。私たちはAIにどう向き合えばいいのか。前号に続いて、山梨学院大学 学習・教育開発センター顧問の船戸高樹氏に話を聞きました。

編集:日経BPコンサルティング

BILANC12船渡先生 山梨学院大学 学習・教育開発センター顧問
船戸 高樹氏(ふなと・たかき)
1942年愛知県生まれ。1965年関西学院大学文学部卒業後、名古屋市立大学大学院経済学研究科修士課程修了。毎日新聞の記者を経て愛知工業大学、明星大学などの事務局長を歴任。2003年から桜美林大学大学院大学アドミニストレーション研究科教授、2012年には九州共立大学教授・経済学部長に就任。現在は大学経営戦略研究所代表、山梨学院大学 学習・教育開発センター顧問、仙台大学、名桜大学客員教授。

~前回は、AIの基本的な知識から米国の現状、大学としてのAIへの向き合い方を伺いました。

そうでしたね。昨年8月、米国の大学をいくつか視察して、AIの先進国とされる国の現状を肌で感じてきました。ざっとおさらいすると、AIの登場によって、大学のパターンが3つに分類されるのではないかということ。1つは、Face to Faceを重んじ、補完としてAIを用いるタイプ。ハーバード大学やイェール大学など、アイビーリーグを中心としたリベラルアーツ系の上位の大学です。2つめは、その対極にある、株式会社型の大学で、オンライン教育を中心とするAI主導型。3つめは、ハイブリッド型。2つのタイプの真ん中にあって、F2FとAIのいいところをミックスしていくタイプ。ここが最も多くなると予想されています。

~米国ではそこまで予測されているのですね。

ただ、米国の大学でも諸手を挙げてAIに賛成というわけではなく、意外なことに、教員の中でも理解があるのは20%程度。教育に必要なのは、やはりF2Fであると、先生方は結構保守的であることも分かりました。しかし、米国はGoogleやApple、Facebookなどの民間企業が、こぞってAIに対して巨額の投資をしており、その金額は日本とは比較になりません。

~そのような現状を踏まえた上で、「AIが急速に発展していく事実を認識すること、むやみに恐れないこと」が重要なのですね。

そうです。AIに仕事を奪われてしまうと弱気になるのではなく、AIをうまく利用して、AIが得意とする分野はAIに任せ、それ以外の分野を私たち職員や教員が担っていく、AIと共存する方法を積極的に考えていけばいいということです。
例えば、AIやロボットが待ち望まれている業界の1つに、慢性的な看護師不足に悩まされている医療業界があります。労働環境が厳しい割に給与が低く、さらに医学の進歩は著しいため、仕事が増えて責任だけが重くなる一方。定着率が悪く、一説によれば、3年以内で辞めてしまうともいわれています。常に人手不足で四苦八苦している医療機関がすごく多いのが実状です。しかし、医療機関のように命を対象とする仕事で最も大切なのは、"ステーブルマインド"。これはマーケティングでよく使われる言葉ですが、"安定した心"を意味します。サービスを提供する側に安定した心がないと、いいサービスは提供できません。なぜかというと、家庭や仕事場、人間関係でイライラしたり、ストレスが溜まったりして、心が安定しないと事故につながる可能性があります。ステーブルマインドの醸成には、少なくとも業務の多忙からの解放が必要です。患者の検温などの業務は、AIやロボットに任せられるようになれば、看護師さんの負担は減ると思います。

~ところで、日本におけるAIを取り巻く現状で、先生が懸念されていることがあると伺いました。

今、一番心配しているのが、一般の方の反応がとても鈍いことです。前回お話をさせていただいてから今日まで、AIに関するニュースや情報は日々増えているのに、大学の関係者と話していても、「AIってすごいですね」で終わってしまう。「すごいことらしいけど、自分には関係ない」と。そうではなく、じゃあ自分は、自分たちは一体何をするかを考えないといけないわけです。まさに今は準備をしておくべきときなのです。
これまでの歴史を振り返っても、新しい技術が開発され、導入されたとき、そのことによって職を失う人もいれば、新しく生まれた職に移行できる人もいる。現在、人間がやっている仕事の多くの部分をAIができる時代が目前に迫っているとすれば、人間はどう行動しなければならないかが問われているわけです。それがまさに今ですし、これからの数年間だといえます。
そのために最も大事なことは、AIについての知識を深めること。これ以外にありません。特に20代、30代の人たちは、今こそAIについて知見を蓄える必要があります。そうしなければ、日本は世界の中でも立ち遅れてしまいます。もっと、普通の市民生活の中にAIが浸透していくべきではないかと思いますね。

~その年代以外の人たちはAIをどのように捉えればよいでしょうか。

AIを知る、考えることが重要という点においては、同じだと思います。ただ10代以下の子どもたちは生まれたときからスマホがあるわけですから、AIに対しても何の抵抗もないでしょう。問題は大人です。例えば、60歳や65歳で定年になるにしても、平均年齢を考えると、ポストリタイアしてからの時間は短くありません。その年代の多くは、「自分たちにはAIは関係ない」と思っているかもしれませんが、AIはビジネスの世界だけでなく、社会生活に大きく関わってきます。リタイア後も、AIが進化し続ける時代を生きていく必要があるのです。否応なくAIは関係してくるので、無関心ではいられないと思います。
年を重ねると、新しい知識を取り入れようという意欲が希薄になりがちです。社会が変化しない時代は、そういう態度でも何とかなったかもしれませんが、これからはそうはいきません。高齢者でも、AIによって大きく変わる社会に対応する力をつける必要があります。さもないと、豊かな老後は実現できません。

~大人は年齢に関係なく、AIの時代を、自分の事として考えなければいけないということですね。

現在、世界でも飛躍的な成長を遂げている国に、ベトナムがあります。昨年の経済予測リポートにおいて、国内総生産(GDP)の成長率は+6.6%と見込まれ、東南アジア地域においては1位でした。ベトナムの平均年齢は28歳です。一方、日本の平均年齢は46〜47歳なのです。明治維新のとき、日本をリードした勝海舟たちの平均年齢は29歳でした。それが今や46〜47歳です。そして高齢化はどんどん進んでいく。そのような日本においては、高齢者がAIにどう取り組むかは大きな課題です。
年を重ねた方々というのは、それなりに人生を積み上げているわけですから、持っている知識やノウハウはたくさんあると思うのです。定年になって会社を辞めたからといって、社会との関係がプツンと切れてしまうのではなく、いつまでも社会との関わりが持てる仕組みが必要でしょう。
最近、シニア起業家が増えているようですが、良いことだと思います。長年のキャリアを経て蓄積したノウハウを眠らせておくのはもったいない。AIができることはAIに任せて、上手に共存して社会に貢献していただきたいですね。人間は挑戦することによって必ず成長します。高齢者だからといって、成長が止まるわけではないのです。肉体的には無理が利かなくなっていきますが、知識や思考能力はまだまだ成長の余地はあると思います。しかも、AIによって低下した体力を補うことができるなど、ある意味、AIは日本の高齢者にとってチャンスといえるでしょう。世界的にも類を見ない高齢者先進国としての日本において、高齢者がAIにどう取り組むかということにもっと注目してもいいと思います。

~高齢化とともに、日本の大きな課題とされている地域創生についてはいかがでしょうか。

現在、日本にある1800の自治体のうち、896が消滅するといわれています。とりわけ地方は、少子高齢化のため税収が減り、自治体そのものの維持が難しくなります。すでに問題になっていますが、日本はこれから60歳以上の人口が3割を超えていきます。独居老人や老老介護という状況はさらに増加し、介護に関わる人々にとって非常に大きな負担です。しかし、自治体がフォローすることが難しい状態です。例えば、保健師さんが一軒一軒巡回して、高齢者の様子を見てまわるとしても限界が訪れるでしょう。しかし、自治体の仕事をマニュアル化し、AIやロボットを活用して地方に光を当てることはできると思います。地域を活性化するには"人"が必要ですから、AIやロボットだけに委ねたのでは地域の創生はできません。人間とAI・ロボットがうまく共存することが必要です。そもそも、朝起きて会社に行って17時まで働くというスタイルが、いつまで続くのか分かりません。勤務体系や働き方は必ず変わります。そうなると、家は必ずしも都会になくてもよくなるかもしれません。働き方自体のイメージも変わっていくでしょうね。

~AIを知るために、具体的には何をすればよいのでしょうか。

まずは関心を持つことです。AIがどんなことをしているのか、何ができるのかを知る。といっても、難しい仕組みを知る必要はありません。
1日10分でいいから、AIに関する情報を、新聞でもネットでも調べることから始めましょう。今や、医療や建設、家電に至るまでAIに関するさまざまな情報が、連日のように取り上げられています。先日、しゃべる電子レンジが発売されたのはご存じでしょうか。「今日は何を食べようかな」と相談すると、献立を提案してくれるのです。しかも、音声認識の進化によって、方言にも対応できるようですね。他にも、生命保険の会社が保険金の支払い審査にAIを導入する計画や、がんの治療薬に用いる物質候補をAIを使って探し出すという試みもされています。そのような身近な話題を、毎日10分程度時間を割いて情報を得る。ある程度情報が集まれば、次はAIがどのようなことができるのかを、自分なりに考えてみる。
自分の仕事の内容を分析して、ここはAIがやることになるだろうから、自分はどのような仕事をすればいいのか。余った時間ができたら、その時間を何に使うのかを考える。AIがもたらすであろう変化を、知って想像して自分事にすることが大事です。

~そういう状況の中で大学の在り方も変わってくるのでしょうか。

当然変わってきますね。昨年の9月、日本の大学として初めて、ある大学がAIを活用した大学改革・業務改革を実施すると発表しました。導入したAIは3000万円といわれていますが、この金額は、年間500万円もらっている職員の6人分。仮に1年で3人が辞めれば2年で元が取れてしまいます。どうでしょう。非常に現実的な話になりませんか。ある意味、AIは間違いなく人員削減に役に立つのです。
実際の仕事の面でも、AIはうっかりミスを起こしません。計算ミスは皆無ですから、すべて正しい数値しか出てこない。そうなると、職員や教員には時間的な余裕が生まれます。真価が問われるのはそこからです。職員も教員も新しい働き方を見つけざるを得ません。空いた時間を、学生たちのために何ができるのか、どう使うのかを積極的に考え、知恵を出さなければなりません。
1つの考え方として、大学が地域コミュニティとの関係を構築するということがあります。以前、米国に行ったとき、ある老人養護施設の視察に行きました。そこでは、近隣の大学とタイアップして、施設の入居者に対して、週に3日ほどトレーナーがついて運動をさせるというプログラムを始めていたのです。トレーナーは大学生がインターンシップとして務めます。学生たちは単位になるから一生懸命取り組みますよね。一方、入居者はどうかというと、若い学生と触れ合うことによって元気になり、医療費がすごく下がったという効果があったそうです。こうした人と人との触れ合いの部分、生きる意欲や人生の楽しみのようなコミュニケーションは、AIではまだできません。
米国の大学の良いところは、必ず大学が地域のコミュニティを重視していることです。地元のコミュニティの人たちが、大学を応援していくという関係づくりを重視しているのです。
もう1つ例を挙げましょう。プリンストン大学に行ったときのことですが、小学生の団体がキャンパスに見学に来ていました。将来入学してもらうことが目的です。そのためには、子どもたちが興味を持つような最先端の研究を紹介したり、優秀な学生を育てたりすることはもちろんですが、地域コミュニティが抱える高齢者の課題などに対して、地域とともに取り組んでいく姿勢も紹介していました。地域から支持されない大学は、社会からも支持されないというのが米国の考え方。日本でも、もっと大学と地域が共生するという概念が強く打ち出されてもいいかもしれません。

~現在、日本の大学の中でAIに積極的に取り組んでいる大学はあるのでしょうか。

残念ながらほとんどありません。AIの研究というテクノロジーの面で取り組んでいる大学はありますが、私が必要だと考えているのは、AIの時代が到来したとき、人はどのように変わるのか、社会の仕組みはどのようになるのか、会社や学校はどのように変化するのか、といった社会学的なアプローチです。あるいは、AIの活用が当たり前になったとき、人間のストレスや企業の経営方針はどのように変化していくのかという心理学や経済・経営学的なアプローチです。
つまりAI学部のようなものがあって、「AI社会学」「AI心理学」「AI経済学」などを有する大学が設置されるべきだと思います。今、そういった大学を作るべきでしょう。既存の大学の中にAI学部を創設して、新たな学生を呼び込むことによって、地域創生の一役を担えるかもしれません。

~AIが進展することで、既存の学問にさまざまな影響があるということですね。

そうです。AIが進めば法律が変わり、教育の根本が変わります。大学の設置基準や学校教育法などもすべて見直す必要があり、現在のシステムは機能しなくなるでしょう。AIが授業を行うなら、大学間の差は少なくなり、学生は現在以上に大学を選び始めるでしょう。また、AIの導入によって、家から出なくても勉強ができるとなると、なぜ大学に行くのかという答えを出さなければならなくなります。
大学に行く理由は2つあります。1つは授業で、もう1つはコミュニティの場としてのキャンパスの役割。AIが導入され、自宅での講義が可能になったとしても、Face to Faceの学生たちと向き合うゼミのような方式は必ず残ると思います。しかし、ゼミや講義の内容は問われることになるでしょう。コミュニティの場として、友だちに会ったり、クラブ活動をしたりするためのキャンパスの役割は、AIが導入されたとしても、変わらず残るでしょう。

~まさに生き残りをかけた改革の時代が始まるわけですね。

元米国大統領リンカーンが、こんな言葉を残しています。"I will prepare and some day my chance will come.(準備しておこう、チャンスはいずれ訪れる)"その通りだと思います。チャンスが訪れてから準備をしていたのでは間に合いません。AIに関しては、ここ数年の過ごし方が勝負です。逆にいえば、これからの数年をどう過ごすかによって、それぞれの大学が生き残れるかどうかが決まってくるといえるでしょう。
ただし、気をつけるべきは、AIは我々の世界を良くするための手段であることをきちんと認識することです。決してAIを使うことが目的ではありません。
繰り返しになりますが、とにかくAIに興味を持ちましょう。1日10分、AIに関する情報をチェックすることをクセにしてください。年齢に関わりなく、新しいことに挑戦をし続ける者だけが、新しい時代を迎えることができるのですから。


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