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組織に就業規則を周知させるには

法律ワンポイント講座(第3回)

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BILANC10号より立﨑・小林法律事務所の小林誠弁護士に、退職金制度と就業規則について、基礎的な内容を中心に解説していただいていますが、今号は、就業規則の注意点について伺います。労働基準法は、就業規則(退職金制度も含め、事業場の労働者の労働条件や職場規律を定めた規則類)の作成・変更に関して様々な内容を定めています。今号では、その中でも作成した就業規則の「周知」に関する注意点について、お話を聞きました。

BILANC13小林先生 立﨑・小林法律事務所 弁護士
小林 誠氏(こばやし・まこと)
今回のポイント

○ 就業規則の周知とは

・ 労基法第106条では3つのいずれかの方法による「法令、就業規則等の周知」の義務が定められ、労契法第7条では、就業規則が「周知」されていれば、新規採用時の労働条件に適用できることが定められている。

・ 労働法と労契法では周知の内容が異なる

○ 2つの法律上の周知

労働基準法(いずれか)

① 個々の作業場(建物ごと)の見やすい場所に掲示する
② 印刷したものを交付する
③ パソコン等を設置し、データで閲覧できる状態にする

労働契約法

実質的な周知(労働者が知ろうと思えば知り得る状態)

~就業規則は教職員に周知させなければならないとのことですが、具体的にどのようなことをすればよいでしょうか。

労基法106条1項は、法令や労使協定などとともに、就業規則について、周知を義務付けています。周知方法については、従来、「常時各作業場の見易い場所に掲示し、又は備え付ける等の方法によって、労働者に周知させなければならない」と周知方法の例が示されているだけでしたが、平成10年の労基法改正によって、周知方法が明確化されました。具体的には、
①常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、
②書面を労働者に交付すること、
③磁気テープ、磁気ディスクその他これに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
のいずれかです(労基法106条1項、労基則52条の2)。
ここで、①の「作業場」とは、事業場内において密接な関連の下に作業の行われている個々の現場をいい、主として建物別等によって判定すべきものとされています(昭和23年4月5日基発第535号)。
②の「書面」には、印刷物及び複写した書面も含まれるものとされています(平成11年1月29日基発第45号)。
また、③の方法によって周知を行う場合には、就業規則の内容を磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、当該記録の内容を電子データとして取り出し常時確認できるよう、各作業場にパーソナルコンピューター等の機器を設置し、かつ、労働者に当該機器の操作の権限を与えるとともに、その操作の方法を労働者に周知させることにより、労働者が必要なときに容易に当該記録を確認できるようにすることとされています(平成11年1月29日基発第45号)。
なお、就業規則の変更があった場合にも、その変更後の内容を周知させなければならないことはもちろんです。
このように労基法106条1項は、就業規則の周知方法を限定していますから、何らかの方法で周知を図ったとしても、上記の①~③の方法で周知させなければ、この条項に違反することになり、罰則(労基法120条1号30万円以下の罰金)の対象となり得ることになります。例えば、就業場所とは別の建物にある食堂や更衣室に就業規則をファイルに綴じて備え付けておいたような場合、後に述べます実質的周知に当たる余地はありますが、「労基法106条1項の定める周知」とは言い難いと思います。

~就業規則の周知等を怠った場合、労務管理上、不都合なことはありますか。

就業規則には、(イ)労働契約の内容である労働条件の最低基準を画するという効力(これを「最低基準効」といいます。)(労契法12条、労基法93条)と、(ロ)労働契約の内容である労働条件を規律する効力(この効力についてはいくつかの呼び方がありますが、以下では、これを「労働契約規律効」と呼んでおきます。)(労契法7条本文、10条本文)が認められています。
しかしながら、労基法は、就業規則の作成・変更に関して、①就業規則に一定の事項(必要記載事項)を記載すること(労基法89条)、
②労働者の意見聴取(労基法90条)、
③労働基準監督署長への届出(労基法89条、労基則49条)、
④労働者への周知(労基法106条1項)
を定めており、このうち、①はあまり問題となりませんが、②~④を欠く場合、就業規則のこれらの効力が認められないことがあります。このため、これらの手続を怠ると、労務管理に支障を来すおそれがありますので、注意をしなければなりません。

~就業規則の周知等を怠った場合、就業規則の「最低基準効」は認められますか。

就業規則の「最低基準効」については、②労働者の意見聴取、③労働基準監督署長への届出を欠いても認められるとされています。
これに対して、④労働者への周知を欠いた場合に、この効力が認められるかについては争いがあります。多数の学説は、労基法106条1項の定める方法による周知までは必要ないけれども、実質的周知(これは、教職員が知ろうと思えば知りうる状態に置くことをいいます。)を欠けば、就業規則の「最低基準効」は認められないとしています。これに対して、実質的周知を欠いても届出があれば、就業規則の最低基準効は認められるという見解も有力に主張されています。現時点では、いずれの考え方もあり得ると考えておいた方がよろしいでしょう。ただし、トラブルを避けるためにも、労働者への周知を行うべきであるのは、言うまでもありません。

~就業規則の周知等を怠った場合、就業規則の「労働契約規律効」は認められますか。

就業規則の「労働契約規律効」は、第1に、教職員を採用する場合に問題となります。教職員を採用する場合、細かな労働条件についてまで合意していないのが通常ですが、このような場合、細かな労働条件について就業規則の定めによること(就業規則に定める条件を適用すること)ができるかということです。これについて、労契法は、「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。」(労契法7条本文)と定めています。
ここでの「周知」とは、はじめに説明しました労基法106条1項の定める方法による周知ではなく、実質的周知とされています。したがいまして、教職員を採用する際、(a)就業規則を実質的に周知させており、かつ、(b)就業規則が合理的な労働条件を定めていれば、採用される教職員が就業規則の内容を知っていたかどうかを問わず、当該教職員の労働条件は、就業規則の定めによることになります。これを裏返して言えば、就業規則の実質的周知を欠いていれば、新たに採用した教職員の労働条件について就業規則の定めによることはできないということになります。
では、②労働者の意見聴取、③届出を欠いていた場合、この就業規則の効力は認められるでしょうか。この点、この手続を欠いても、この効力は認められるとされています。
就業規則の労働契約規律効は、第2に、就業規則の変更で労働条件を変更する場合に問題となります。
労働条件の変更は、教職員との合意によってするのが原則ですが(労契法8条)、就業規則の変更によってこれをすることができるか、特に、就業規則の変更によって労働条件を教職員の不利益に変更できるかというのがここでの問題です。これについて、労契法は、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。」(労契法9条)としたうえ、「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。」(労契法10条本文)と定めています。少々長い条文になっていますが、判例法理で積み重ねられてきた判断要素が全て書き込まれているため、このようになっています。ここでの「周知」とは、やはり、労基法106条1項の定める方法による周知ではなく、実質的周知とされています。したがいまして、就業規則の内容を教職員の不利益に変更する場合、(a)変更後の就業規則を実質的に周知させ、かつ、(b)就業規則の変更が合理的なものであれば、教職員の労働条件は、変更後の就業規則の定めによることになり、就業規則の変更に反対する教職員も変更後の就業規則の定めに拘束されることになります。しかしながら、変更後の就業規則の実質的周知を欠けば、少なくとも、就業規則の変更に反対する教職員に対しては、変更後の就業規則の定めによることはできません。
では、就業規則の変更について、②労働者の意見聴取、③届出を欠く場合、変更後の就業規則に、この効力は認められるでしょうか。この点、これらの手続を行ったか否かは、上記(b)の就業規則の変更の合理性の判断要素となるとされています。労契法11条も、就業規則の変更に当たってこれらの手続を行うべきことを定めています。ですから、これらの手続を欠いた場合には、争いになったときに、この効力が否定されるおそれがあると考えておかなければなりません。

参考判例:
①フジ興産事件

平成15年10月10日 最高裁判所第二小法廷判決
この判例は、懲戒処分の根拠として、就業規則の効力(労働契約規律効)の有無が争いになった事案です。
この事案では、就業規則は、労働者の代表の同意を得て作成され、労働基準監督署に届け出られていますが、懲戒処分を受けた労働者の事業所には、就業規則は備え付けられていませんでした。この場合、就業規則は、懲戒処分を受けた労働者に適用されるのでしょうか。
判決では、就業規則が労働者に拘束力を生じさせるためには、
① 労働者の懲戒処分には、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくこと
② その内容を、適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていること
が必要であると判断しました。また、判決では、労働基準監督署長に届け出ていても、周知がなされていなければ、効力(労働契約規律効)が生じないとも判断しています。
よって、懲戒処分を受けた労働者には、就業規則が事務所に備え付けられていなかったとしても、労働者代表の同意を得て作成され、労働基準監督署長に届け出た事実があるので、就業規則が適用されると判断した高等裁判所の判決を否定し、高等裁判所に裁判を差し戻し、再度周知の有無について審理をさせることとしました。
この労働契約法制定前の判例法理は、労働契約法の条文に取り入れられています。

②秋北バス事件
昭和43年12月25日 最高裁判所大法廷判決
この判例は、新たに定年制(停年制)を導入した就業規則が有効か無効かを争った事案です。
この事案では、それまでは一定役職以上にはなかった定年制を導入し、定年年齢以上だった労働者が解雇されましたが、この労働者はこの定年制の導入に同意していないので、解雇の無効を訴えました。この場合、就業規則は解雇された労働者に適用されるのでしょうか。
判決では、定年制に関する当時の社会情勢や定年制が会社にとって必要な理由、一般従業員には定年制が既に導入されていること等を比較すると、新たな定年制は合理的なものであると判断し、内容に同意がなく不利益変更(判決では、定年制がないということは、ただ、雇用期間の定めがないというだけで、雇用についての既得権があるわけではないとしています)であっても有効であると判断しました。また、就業規則上の労働条件の定めが合理的なものである場合には、個別の労働条件の決定は、その就業規則によるという「事実たる慣習」が成立しているものとして、その事業場の労働者が就業規則の内容を知らなくても、また、就業規則に同意していなくても、就業規則の適用を受けると判断しました。
この労働契約法制定前の判例法理も、労働契約法の条文に取り入れられています。

○ 法律用語の内容が法律ごとに違うことがあります

今回の解説では、労基法と労契法で「周知」の内容が異なるということの解説がありました。これは、労基法と労契法では法律の趣旨が異なるため、使用する「周知」の内容が少し異なるということです。他にも「使用者」「労働者」の範囲もこの2つの法律では若干異なります。今回の解説でも労基法における「周知」と労契法における「周知」の違いを押さえて読んでいただくとわかりやすいでしょう。ここでは、ご理解を深めていただくための基本的な事項をご紹介します。

❶ 規定には、強行規定と任意規定、取締規定などの区別がある。
民法91条では、「法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思表示をしたときは、その意思に従う」と定めています。「法令中の公の秩序に関しない規定」を任意規定といい、法令中の公の秩序に関する規定を強行規定といいます。民法91条によれば、任意規定と異なる法律行為をしても有効ですが、強行規定に反する法律行為は無効となります。どのような規定が強行規定かについては、一言では言えませんが、基本的な社会秩序に関する規定や経済的弱者の保護のための規定は、強行規定といえます。
また、行政上の考慮から違反した場合に、罰則があるものを取締規定といいます。取締規定の中にも、契約(取引)自体を無効とするものとそうでないものがあり、前者を効力規定といいます。

❷ 労基法は取締規定、労契法は民法の特別法
今回の解説で登場した労基法とは、労働基準法を略したものです。労働基準法は、憲法27条2項の「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。」を受けたものと言われ、労働契約における取締規定(法規)としての側面を有しています。また労働基準法は、労働条件の最低基準を定めていて、効力規定(強行規定)としての側面も有しています。
一方、労契法とは、労働契約法を略したもので、民法の特別法と位置づけられます。

❸ 労基法違反=直ちに無効とは限らない
上述のとおり、労基法には取締規定としての側面と効力規程としての側面があります。そして、今回の解説でも「(就業規則の届出などの)手続を欠いても、この効力は認められるとされています」と触れているように、労基法に違反したら、必ずしも無効になるとは限りません。たとえば、今回の解説にもあるように、就業規則の届出を欠いていた場合などの就業規則については、その効力が認められ、無効にならない場合もあります。反対に、無効になる例をあげれば、労基法の労働契約上の最低基準を定めた部分は、それを下回る労働契約は無効となり、労基法に定める基準が適用されます。


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