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大学の競争力強化につながるダイバーシティ・マネジメント

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欧米の企業を中心に発展してきた「ダイバーシティ」の取り組みは、日本企業でも徐々に広がりつつあります。こうした流れは企業だけに留まらず、大学にも及んできました。しかし、本当の意味で組織の強みにつながるダイバーシティを実践できている組織はまだまだ少ないと指摘されています。組織にメリットをもたらすダイバーシティとはどのようなものか、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授に聞きました。

編集:日経BPコンサルティング

BILANC12入山先生 早稲田大学ビジネススクール准教授
入山 章栄氏(いりやま・あきえ)
1996年、慶應義塾大学経済学部卒業。1998年、同大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、米ピッツバーグ大学経営大学院により博士号(Ph.D.)を取得。米ニューヨーク州立大学バッファロー校の助教授を経て、2013年より現職。専門は経営戦略論および国際経営論。『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)などの著書がある。

~企業をはじめとする組織においてダイバーシティを導入するメリットはどこにあるのでしょうか。

まずは事前に何のためにダイバーシティを導入するのかを十分に考える必要があります。私の考えるダイバーシティは、企業や組織、大学などがより良くなるための「手段」であって、ダイバーシティそのものが「目的」ではありません。経営学的な観点では、新しいアイデアや知見は、既存の知と別の既存の知が組み合わさって作られるものだと考えられており、ダイバーシティはそのための手段の1つです。ダイバーシティを正しく理解している企業では、組織の中に異なる考えや知見、経験、価値観を持つ人を集めることで、イノベーションを起こそうとしています。ところが、日本の大学を含む多くの組織では、ダイバーシティの意味を正しく理解できていないように思えます。
昨年の夏頃は、さまざまな企業のダイバーシティ推進室の方々からダイバーシティの取り入れ方について相談を受けました。ただ、「そもそもどうしてダイバーシティを推進しようとしているのですか?」という問いかけに対して9割近くが明確に答えられませんでした。ダイバーシティを導入せよという会社からの指示を受け、何のためかも分からず、数字合わせで女性社員を増やせばよいと考えているようでした。

~日本でダイバーシティが普及しにくい原因はどこにあると思いますか。

まず、ダイバーシティがイノベーションにつながるということが知られていません。これは日本における大きな問題で、今進められようとしている「働き方革命」でもそうですが、何のために取り組むのかという議論をせずに、ダイバーシティや働き方革命といった言葉だけが先行しています。しかし、それでは手段と目的が完全に逆転しています。ダイバーシティというのは、あくまでも会社や組織がよくなり、私たちの生活がより豊かになるための手段であって、数字合わせで無理やり女性やマイノリティの人たちの数を増やしたからといって必ずしもハッピーにはなりません。
ダイバーシティとは直接関係ありませんが、今年から提唱され始めた「プレミアムフライデー」はそういう意味でも同様の課題を抱えています。政府が後押しして「月末最後の金曜日は午後3時に帰りましょう」というのは、それだけ日本人の働き方が多様化されていないことの証明です。そうやって画一化して、みんなを3時に帰そうとしているのですから。サービス業が増えれば土日に働かなければいけない人も多くなりますし、朝早く出社して早めに帰って子どもと一緒に過ごしたい人、朝は子どもを幼稚園に送ってゆっくりめに出社したい人もいるはずです。ダイバーシティを進めれば働く人が多様になるのですから、働き方も自然と多様になるはずで、そこから企業や組織が活性化していきます。それができていないからプレミアムフライデーのように画一的な働き方を押しつけかねないことになるのです。

~ダイバーシティを考えるとき、どのような視点から組織内の多様性を促していけば良いでしょうか。

ダイバーシティには「タスク型」と「デモグラフィ型」という2種類が考えられます。1つ目の「タスク型」は、その人の能力や経験、知識など目に見えない多様性のことです。これは組織にプラスになるダイバーシティで、知と知の新しい組み合わせにつながります。2つ目の「デモグラフィ型」は、性別や国籍、年齢など目に見えやすい属性による多様化のことで、タスク型のように組織にとってプラスになるとは限りません。
人間の認知には限界がありますから、男性ばかりの組織に数字合わせで女性を増やしたところで、男性グループと女性グループに分かれて組織内組織が対立し合うだけです。私はそのような取り組みを「数字合わせのダイバーシティ」や「形だけ揃えるダイバーシティ」と呼んでいますが、それではダイバーシティを推進する意味がないのです。

2種類のダイバーシティ
BILANC12入山先生図表

BILANC12入山先生図表

~組織の利益につながるダイバーシティにおいて、注意すべきポイントは何でしょうか。

ダイバーシティを実践するならば、多様な人たちが生き生きと働ける環境にする必要があります。例えば、Googleはグローバルでリベラルな企業として知られていますが、そのようなグーグルでさえ「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」があります。そこで、スタンフォード大学の心理学研究者との共同で、偏見をなくすための「バイアス・バスティング」というプログラムを実施しています。
また、ユニリーバでは多様な人が働くための「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」という人事制度を作りました。「WAA」は、働く時間も場所も社員が自由に選べるという制度で、平日の6時から21時の間で、自由に勤務時間や休憩時間を決めることができます(上司への申請が必要)。勤務する場所も会社に限らず、自宅や近所のカフェでも構いません。とはいえ、人と会ってミーティングする必要があるので、皆さん出社するようですが、それが会社に縛られたものではないのです。そのように、多様な人が集まるのならば、働き方も多様になっていきます。
日本企業でも、富士ゼロックスやカルビーのように、ダイバーシティを取り入れている企業はありますが、人材の流動性が高い外資系企業の方が盛んです。

~日本企業が多様性を受け入れにくい理由としては、どのようなことが考えられますか。

戦後から20年くらい前までの日本企業では、定年制度にともなう長期雇用など、画一的な仕組みで成長し続けることができました。その土壌があるため異質なものを受け入れにくくなっているのでしょう。
まずは、多様な人を受け入れられるよう、新卒一括採用の見直しです。新卒一括採用ほど同質な人を受け入れる仕組みはありません。入社から65歳の定年まで1つの会社で勤め上げるという仕組みが今の時代に合っていないのです。昔ながらの雇用の仕組みは「製造業モデル」とでもいいましょうか、製造業の工場で同じような作業をする時代ならばそれで良かったのです。しかし、今はサービス業が主流になり、しかもイノベーションが求められます。そうなると、1つの製造プロセスを改善しながら繰り返していく方法ではなく、まったく新しい知見が必要になります。
ですから、ダイバーシティだけを議論してもまるで意味がありません。働き方はもちろん、そもそもその会社がどのように今後稼いでいくのかが見えていないとイノベーションも起きません。会社のビジョンから、全体で考えていく必要があります。その上で戦略があり、その戦略に合わせて人事戦略をとっていく。日本でも新卒一括採用をしないで定年制度を撤廃した企業が増えていますが、それができない日本企業ではイノベーションが起きておらず、生産性が低いというのが現実です。

~旧来的な仕組みに固執している限り、ダイバーシティは普及できないということですね。

繰り返しますが、問題は何のためにダイバーシティが必要かということ。自分の会社や組織にとってプラスでなければ、ダイバーシティは持続しないのです。実際、建設業のような旧来型の営業スタイルが中心で十分利益を上げられる会社ならば、無理してダイバーシティを導入しても会社にとってプラスにならないかもしれません。しかし、同じ建設業界でもそこに住む家族や女性の目線が重要になるハウスメーカーでは、多様性を取り入れるメリットが高いかもしれません。

~結果として、女性や外国人、障害者といったマイノリティに活躍の可能性が広がることにはつながらないのでしょうか。

それは目的の問題だと思います。女性や障害者を社会的に救済する必要があるというのなら、そういう取り組み方もあります。ただし、それは社会的な課題であって、イノベーションのためのダイバーシティとは別問題です。それを混同して考えているから、正しい理解が広がらないという側面もあるでしょう。場合によっては、企業のCSR活動としてマイノリティを雇用することはあるかと思いますが、会社のCSRのために女性を採用するのだとしたらそれは失礼な話ですよね。
男性ばかりの会社が、「女性の視点を取り入れることが力になる」という目的で女性を積極採用するならば良いと思います。さらにいえば、男女など関係なく、優秀で、この会社に合っていて、多様な考えや知見を持った人を採用する。その結果、気づいたら女性比率が非常に高くなっていた。そうなることが理想です。
カルビーなどはまさにそのケースです。マーケティング担当の女性がフルーツグラノーラをヨーグルトと抱き合わせで売るという提案をしたところ爆発的ヒットにつながりましたが、これは男性目線では生まれにくい発想です。このようにBtoCの会社では、購買層の半分は女性ですから、女性目線が生きてきます。

~大学においてダイバーシティがメリットになるとしたら、どのような点が挙げられるでしょうか。

大学は企業に比べて、とてもダイバーシティを取り入れやすい組織なのではないでしょうか。共学の場合、学生の半分は女性ですし、外国人教員や留学生の比率を高めようという大学も多いので、職員が多様化するメリットは大きいはずです。私の個人的な考えでも、事務系職員に外国人が増えるとありがたいと思います。早稲田大学でも国際教養学部やビジネススクールは半分くらい外国人で英語での授業を行っていますから、英語での対応が可能な職員の方がたくさんいる方が助かります。

~日本の私立大学がダイバーシティを推進する上で、特に考えなければいけないポイントを教えてください。

ダイバーシティの議論では忘れられがちなのですが、多様な人を受け入れるときは、同時に人を出していかなければいけません。ダイバーシティが進んでいる外資系会社では、多くの人材を採用する一方で、会社を離れる人も多いのです。米国の大学もそうで、特に若手は常に解雇の危機にさらされています。私も米国の大学にいたときには、常に解雇される可能性をもちながら働いていました。そうやって組織内の新陳代謝を促しています。
ところが日本の大学では、教員でも職員でも、一度正規雇用されればずっとそのまま守られます。そうすると、一生その組織に居続けようと非常に保守的になり、他人との軋轢を恐れ、能力で競争せずに派閥を作り、事務方も官僚的になる。これはダイバーシティとは対局の在り方です。ですから、大学でダイバーシティを取り入れることは大賛成ですが、そのためには期待にこたえられない教員や職員には相応の評価を下す必要があるかもしれません。

~そのような観点で取り入れようとした際に問題点はありますか。

一番の問題は、トップに人事権がないことです。教授職に就いた人が大学の方針や考え方に合わない、またはきちんと業績を挙げられないとしても、学長や学部長には解雇する権限が持たされていません。そこを根本から見直さない限り、ダイバーシティは定着しないでしょう。
例えば、米国のビジネススクールでは、いかに優秀な学生を集めてくるかがポイントになります。そのために優秀な学生をリクルーティングするプロフェッショナル職員がいるのですが、彼らの能力が低いと学生の質が下がり、大学のランキングも下がる。そうなったら、その職員は解雇されます。逆に、成果を挙げれば評価されて収入も上がります。
ダイバーシティも働き方革命も、実は表層的なものに過ぎません。ダイバーシティを考えるなら、組織のビジョンや本質から考えなければいけないのですが、女性管理職比率を何%にしようとか表層の問題としてしか捉えていない企業や組織が多すぎます。一方で、民間企業の例でも話しましたが、製品力が非常に高いので効率的に生産ができる画一的な人材がほしい場合など、あえてダイバーシティを取り入れないほうがいい企業もあります。同じように、大学でもダイバーシティが組織にプラスにならないなら無理に取り入れなくてもいいと思います。
そういった選択は当然あり得ますから、大学が進むべき方向を見据えた上で、組織内の在り方、働き方などの多様性に取り組んでいくべきではないでしょうか。

~一部の小規模な私立大学では、大規模大学と差別化するためにイノベーションを起こしたいと考えています。そのような大学に対して、経済学的な視点から何かアドバイスがありますか。

結局は横並び体質が一番良くないので、目先ではなく、これから大学に入る人たちが30年、50年先に活躍できることを目標に、そのときに向けてどのようなカリキュラムが必要か、本質から考えることが重要だと常々思っています。大学には教育と研究という二つの側面がありますが、全部が両方の役割を担うわけではありません。
米国には2000校以上の大学があり、そのうち研究ができる大きな大学は100校以下。それ以外は教育大学です。
日本でも教育と研究のメリハリを考えることが大切で、地方の小規模大学であっても、教育で差別化することで活路が拓けるのではないかと考えています。

~教育を中心とした小規模大学の場合、どのようにメリハリをつけていけばよいでしょうか。

保護者の視点に立ってみると、求められているものが分かりやすいのではないでしょうか。一部の有名大学を除いて、大学によるシグナリング効果は期待できません。しかし、その大学で何を学び、何を経験して、将来どのような社会人になれる可能性があるのか、といったことをしっかりと訴求してくれると、とても安心できます。
海外で濃い人生経験を積むとか、生半可でない高度な英語を話せるようにするとか、市場価値の高い中国語やヒンディー語を学べるとか、実践的なことを徹底的に鍛えて、4年間でこれだけの人材に育成しますということを言える大学が強くなるでしょう。大手企業の人事担当者の話を聞いても、もはや出身大学など意識していない企業も増えているようです。ですから、これからの大学は、入口より出口のほうを重視すべきだと考えています。


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