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退職金制度と就業規則の基礎知識(第2回)

法律ワンポイント講座(第2回)

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BILANC9号より立﨑・小林法律事務所の小林誠弁護士に、退職金制度について、基礎的な内容を中心に解説していただいています。第2回の今号では、採用時と退職時の注意点について、お話を聞きました。

BILANC11小林先生 立﨑・小林法律事務所 弁護士
小林 誠氏(こばやし・まこと)

~「採用する」「採用される」ということは法的にはどういうことなのでしょうか。

採用する、されるとは、労働者と使用者の間で、①労働者が使用者に使用されて労働すること(指揮命令に服した労働提供)、②使用者がこれに対して賃金を支払うこと(労働提供に対する賃金支払)の2つを内容とする契約が成立することを意味しています。この契約のことを、労基法や労契法では「労働契約」と呼んでいます。なお、民法では「雇用契約」といわれますが、「労働契約」と同様のものと考えて差支えありません。
労働契約は、①と②の合意のみで成立し(労契法6条)、書面の作成や交付は必要ありません。また、①と②の合意さえあれば、労働条件が定まっていなくても労働契約は成立します。このため、労働条件が不明確になりがちですので、労契法は、使用者に対し、労働条件及び労働契約の内容について労働者の理解を深めるよう求め、労働者及び使用者に対し、労働契約の内容についてできる限り書面により確認するよう求めています(労契法4条)。また、労基法は、使用者に対し、労働契約の締結に際し、労働者に賃金、労働時間その他一定の労働条件を書面で明示することを義務付けています(労基法15条、労基則5条。なお、パートタイム労働法6条)。ただし、これらが行われなかったとしても、労働契約の成立に影響はないとされています。
ところで、新規学卒者を採用する場合、一般に卒業期の相当前の時期に採用内定が行われています。この法的性格については争いがありましたが、今日では、採用内定によって、始期(労働契約の効力発生時期又は就労の開始時期)が付され、かつ、解約権が留保された労働契約が成立したものとされています(最判昭和54年7月20日民集33巻5号582頁、最判昭和55年5月30日民集34巻3号464頁)。このように採用内定によって労働契約が成立するとすれば、労基法15条の労働条件明示は、採用内定の段階で行うべきことになります。

~新入教職員が就業規則で確認しておくべきことはありますか。

「就業規則」とは、事業場の労働者の労働条件や職場規律を定めた規則類をいいます。「学校法人〇〇就業規則」という名称のものに限らず、事業場の労働者の労働条件や職場規律を定めたものであればこれに当たります。就業規則には、典型的には、適用範囲、規則の遵守義務、採用手続、試用期間、人事異動、休職、服務規律、労働時間、休憩時間、休日、時間外労働、休暇(種類、内容)、賃金(種類、決定・計算・支払方法、計算期間、支払日)、昇給、賞与、定年制、退職、解雇(事由、手続)、退職金(決定・計算・支払方法、支払時期)、安全衛生、災害補償、表彰、懲戒(事由、方法)などが定められます(なお、労基法89条)。
では、就業規則は、労働契約とどのような関係があるのでしょうか。まず、労働契約で定めた労働条件が就業規則の基準に達しない場合、労働条件は就業規則の基準によることになります(これを就業規則の「最低基準効」といいます。)(労契法12条、労基法93条)。また、労働契約締結の際、合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた(労働者が知ろうと思えば知りうる状態にしておくことをいいます。)場合、労働契約の内容は就業規則の定める労働条件によることになります(これを就業規則の「労働契約規律効」ということがあります。)(労契法7条本文)。この場合、当該労働者が労働契約締結の際、実際に就業規則の内容を知っていたかどうかは問いません。このように、就業規則は、通常、労働者の知不知を問わず、労働契約の内容となり、労働者はその規律を受けることになります。ですから、特に、新入教職員の方は、ご自分の勤務先の就業規則に一度目を通して、最低限どのようなことが記載されているのかを確認しておくことをお勧めします。なお、その際、事業場や職種によって適用される就業規則が異なることがありますので、注意してください。

~退職に関する規定で注意することはありますか。

就業規則には、退職に関して、以下のような退職の事由や手続を定める規定が置かれています。
(1) 就業規則には、一般に、「定年制」(労働者が一定の年齢に達したときに労働契約が終了する制度)が定められています。法律上、定年は、60歳を下回ることはできず(高齢者雇用安定法8条)、また、定年が65歳未満の場合、一定の措置(雇用継続制度の導入など)が必要です(同法9条)。
(2) 就業規則には、一般に、退職事由として、①「退職を願い出て法人が承認したとき」、②「期間を定めて雇用されている場合、その期間を満了したとき」、③「休職期間が満了し、なお休職事由が消滅しないとき」、④「労働者が死亡したとき」などが定められています。このうち、①は、「自主退職」(労働者による労働契約の解約)を定めたものといわれますが、実際は、「合意解約」(労働者と使用者の合意によって労働契約を将来に向けて解約すること)に当たる場合が多いと思われます。労働者は、期間の定めのない雇用契約では、2週間の予告期間をおけばいつでも契約を解約でき(民法627条1項)、期間の定めのある契約では、やむを得ない事由があるときに直ちに契約を解約できます(同法628条)。②は、当然のことを定めたに過ぎません。なお、期間満了後、更新は可能ですが、一定の場合(通算した契約期間が5年を超える場合など)、労働契約の終了(「雇止め」)に制限が生じます(労契法18条、19条)。③は、就業規則に「休職」(労働者を就労させることが不能又は不適当な場合に労働関係を存続させつつ就労を免除又は禁止する措置)の定めがあることを前提とします。休職後、所定の期間内に休職事由が消滅すれば復職し、消滅しなければ退職(又は解雇)になります。④は、当然のことを定めたに過ぎません。
(3) 就業規則には、「解雇」(使用者による労働契約の解約)の事由や手続が定められています(労基法89条3号)。(イ)期間の定めのない雇用契約では、民法上、使用者は2週間前に予告すればいつでも解雇できます(民法627条1項)。しかし、種々の労働法規で、①「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」解雇は、権利を濫用したものとして無効とされ(労契法16条)、②解雇をするには30日前の予告又は30日分以上の平均賃金の支払いを要し(労基法20条)、③一定の場合に解雇は禁止されます(労基法3条、19条、労組法7条、男女雇用機会均等法9条、パートタイム労働法8条など)。なお、就業規則上の「解雇の事由」は限定列挙か(他の事由による解雇は不可)、例示列挙か(他の事由による解雇は可能)については争いがあります。(ロ)期間の定めのある労働契約では、使用者はやむを得ない事由がある場合でなければ期間途中で解雇できません(労契法17条1項)。(4) 就業規則には、一般に、「懲戒」(規律違反や秩序違反に対する制裁)の事由や方法が定められています(労基法89条9号)。懲戒をなし得る根拠については争いがありましたが、今日では、就業規則にその定めがある場合にのみこれを行うことができ、就業規則上の懲戒の事由は、限定列挙と考えられています。また、労契法によって、「労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」懲戒は、権利を濫用したものとして無効とされています(労契法15条)。懲戒の方法には、戒告、減給、停職、懲戒解雇などがあります。

~退職金についてはどうでしょうか。

就業規則には、退職金についての規定が置かれています。ただし、退職金制度を設けるかどうかは使用者の自由ですから、これを設ける場合にのみ、就業規則にその定めが置かれます(労基法89条3号の2)。
就業規則では、一般に、退職金の額は、退職時の基本給の額に勤続年数別の支給率を乗じた金額とされています。また、支給率は、勤続年数が増えるにつれて上昇し、退職の事由によって差が設けられています。後者に関し、就業規則の多くは、自己都合退職と会社都合退職で支給率を区別しているようですが、いずれに当たるかが明確でないケースもあり、トラブルになることがあります。
就業規則には、「懲戒解雇」の場合に退職金を減額又は不支給とする規定が設けられることがあります。この規定の有効性については争いがありましたが、今日では、その有効であることを前提に、適用範囲を限定する解釈がなされています。また、自主退職後に「懲戒解雇に相当する行為」が発覚して問題となることがあります(退職後ですから「懲戒解雇」はできません。)。「懲戒解雇に相当する行為」があった場合の退職金の不支給、支払の差止め及び返還に関する規定を整備しておくことが望ましいと思われます。なお、就業規則には、退職金の支払方法や支払時期が定められますが、維持会員が財団に対して退職資金の交付請求をするには、「退職金受給者の受領を証する書面またはその写を添付」する必要がありますので(業務方法書14条)これを念頭に置いた規定の整備が望まれます。

○ 法律の略称と内容

❶ 労基法=労働基準法
使用者に対し弱い立場にある労働者が保護されるよう労働条件に関する最低基準等を定める法律。労基則は、労働基準法施行規則のこと。

❷ 労組法=労働組合法
使用者と労働者が交渉において対等な立場となれるよう労働争議に対する刑事上・民事上の免責要件等を定める法律。

❸ 労契法=労働契約法
合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるよう労働契約に関する基本的な事項を定める法律。


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