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AIと人間が共存して教育・運営する大学を目指す

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2013(平成25)年、オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン博士が発表した論文「雇用の未来」。近い将来、人間の仕事の約半分が、AI (Artificial Intelligence=人工知能)やロボットにとってかわられる、という衝撃的な予測が注目されました。そして2016(平成28)年、"AI"の2文字は連日のように、メディアで取り上げられています。はたしてAIは私たちの生活にどう関わってくるのでしょうか。早くからAI研究に取り組む山梨学院大学 学習・教育開発センター顧問・船戸高樹氏に話を聞きました。

編集:日経BPコンサルティング

BILANC11船渡先生 山梨学院大学 学習・教育開発センター顧問
船戸 高樹氏(ふなと・たかき)
1942年愛知県生まれ。1965年関西学院大学文学部卒業後、名古屋市立大学大学院経済学研究科修士課程修了。毎日新聞の記者を経て愛知工業大学、明星大学などの事務局長を歴任。2003年から桜美林大学大学院大学アドミニストレーション研究科教授、2012年には九州共立大学教授・経済学部長に就任。現在は大学経営戦略研究所代表、山梨学院大学 学習・教育開発センター顧問、仙台大学、名桜大学客員教授。

~まずはじめに、現在大学が抱えている課題についてお聞かせください。

大学および大学教育は、社会環境や産業構造等の変化と連動しています。社会環境等の変化は、常に大学にも大きな影響を与えている。そのため、広い視点で社会環境がどう変化したのかを時系列で把握することで、現在が分かります。過去を検証することで現在が理解でき、現在を理解することで明日が展望できると私は考えています。それを正確に把握することが、大学の教育や経営を考える上での第一歩だと思っています。
さて、大学に入学する18歳の人口は、1992(平成4)年度の205万人をピークに、2016年度には119万人と、半分近くまで減少しています。一方、私立大学の数は5割以上増加。小さくなるパイに対して、参入する大学が増えているため、定員割れをする大学が出るのは当たり前です。民間のビジネスであれば、事業そのものを縮小するか、あるいは別の分野に進出するかといった対策を取りますが、大学経営の場合はそう簡単にはいきません。なぜなら大学は、学生に対して教育をするということが唯一の目的だからです。
では、大学はなぜ存在するのかを考えると、「社会に役立つ人を育てる」、つまり人材の養成です。社会変化や技術革新が激しい現在、新しい人材を養成する大学ができるのは、当然です。それでは、学生が少なくなっている学部は廃止すればよいのかというと、それも違います。
教育にとって必要なのは永続性。学生数が少なくても、学部が時代にあっていないとしても、先人が築き上げた知恵の継承や大学の持つ公益性、教育という学問分野を守っていくには、引き継いでいくことが必要だからです。よって、教育と経営は別の話であり、ビジネスの世界でいわれる「選択と集中」が、大学では難しいのです。

~2015(平成27)年の出生数は100万8000人と少子化はさらに進んでいます。大学の状況はより厳しくなるわけですね。

そうです。そして日本は今、少子化が進む一方で、高齢化が進むという状況に陥っています。しかも、高齢化の推移は、世界に例を見ないスピードなのです。高齢化率(65歳以上が人口に占める割合)が7%から14%への2倍に達するまでに要した年数を倍加年数といいますが、フランスが115年かかったのに比べ、日本ではわずか24年で進行しました。実に4倍以上のスピードで高齢化が進んだというわけです。日本の高齢化のポイントはここにあります。あまりに急速に進行しているがゆえに、政策が追いつかないのです。ここが諸外国には例を見ない大きな問題です。生産年齢人口が減り、働き手が減少していくところに、リタイアした高齢者が増えていく。この人たちのケアもしなければなりません。実に重大な問題なのですが、ここで力を発揮するのがAIだと、私は考えています。少子化と高齢化の問題に対応できる。個人的には、世界の中で日本が最もAIの威力を発揮できるのではないかと思っています。

~最近、AIが注目されるようになった背景を教えてください。

近年、AIが注目されているのは、「ディープラーニング(Deep Learning)=深層学習」という機能が急速に進展したことによります。これは人間の脳の働きがモデルになっていて、ニューラルネットワークという情報処理システムです。例えば、東京の代表的なターミナル駅の朝を思い浮かべてください。多くの人がひっきりなしに行き交うにもかかわらず、衝突することなく、自分の行きたい方向に互いに歩いています。またプロ野球投手の投球スピードが時速160kmの場合、捕手のミットに収まるまでは約0.4秒で、このわずかな時間で打者はコースを見極め、打つ、打たないの判断をするわけです。
このように、人間の脳は、目や耳などの五感から大量の情報を入手し、分析して決断、そして実行することができるのです。大体4層から5層くらいにもわたって考え、行動を起こします。ディープラーニングは、この働きをモデルとし、コンピュータ自身が学習し、さらに判断して実行するという機能です。車の自動運転や、2016年3月、人間の囲碁チャンピオンに勝利した「アルファ碁」(Google社開発)などに用いられています。

~囲碁で人間に勝利するようなAIが、大学に導入されるとどうなるのでしょうか。

大学の教職員に、どんな問題を抱えているかアンケートを取ると、最も多いのが業務の効率化、次が人材の育成です。現在のAIが得意なのは、大量の情報を集めて分析して答えを出すということ。例えば、今年度の入学者が何人で、どういう属性があるのかといった定型的な仕事は、非常にAIに向いている。つまり、定型的な仕事にAIを導入することで、業務の効率化を図れるというわけです。人材の育成についても、年間のカリキュラムを組むなどの仕事は、AIが担うことができそうです。何しろAIは休まないし、さぼらないし、文句を言いませんから(笑)。
こう言うと、「私の仕事がなくなってしまう」と懸念される人もいるかもしれませんが、発想を変えて、定型的な仕事はAIに任せ、AIを使いこなしていけばいいのです。ただし、今と同じ仕事をしていては、私立大学職員の7割が職を失うといわれています。AIを導入することで、なくなる仕事がある一方、必ず新しい仕事が生まれるはずです。AIに仕事を"奪われる"のではなく、"ゆだねる"。そして自分は、AIにはできない新しい仕事を、自ら積極的に探していくことが必要でしょう。AIへの正しい知識と理解が、AIと共存するための手段なのです。AIと人間が共存する大学の管理運営システムは必ず求められますから。

BILANC11船渡先生図表

~AI先進国とされるアメリカの大学の教育現場は、どのような状況でしょうか。

もともとアメリカは、「プラグマティズム≒実用主義」という概念が教育の基本になっています。本を読んで知識を蓄えるだけではなく、自らが実習や実験を通してトライをし、その結果でディベートを重ね、さらにトライするという。AIについても、大学ですでにトライが始まっていました。例えば、アメリカのクラスの人数は大体30人なのですが、テストをすれば、できる学生とそうでない学生は分かるのだけれど、一人ひとりがどこまで分かっているかは把握できない。そこで、ある大学で8000人を対象にAIを使って教育をしたところ、AIはすべての学生の進捗度合いを把握し、個人に応じた指導ができたそうです。
そのことを大学教育で考えると、AIの知識量は膨大なわけですから、人間の先生と比べて知識の蓄積という点においてはかないません。科目や分野によって、例えば歴史や経済学史、あるいは概論のようなものはAIが担えるのではないかと考えられ、実際にトライしている大学もあるようです。

~大学全体としてはどう変わっていくのでしょうか。

現地の人たちと話したのですが、今後大学のパターンは3つに分かれるのではないかと推測しました。1つ目は、ハーバード大学やイェール大学など、アイビーリーグを中心としたリベラルアーツ系の上位の大学。ここは全寮制で、寮生活を通して人間性を育てると同時に教育をするという、Face to Faceを主とし、補完としてAIを使うタイプ。「F2F」主型としましょう。2つ目は、いわゆる株式会社型の大学。オンライン教育を中心とする大学は、AIに特化した「AI」主型タイプになるでしょう。そして3つ目は、2つのタイプの真ん中にある「ハイブリッド」型。AIの良いところと、F2Fの良いところを混ぜ合わせていくであろうと予想されていて、数からいうと、ハイブリッド型が一番多くなると考えています。
このタイプの教育の一例が、1週目はAIを使って自宅で学習をし、2週目は大学に来て1週目で学んだことを教員が中心となってディベートをする。3週目はまた自宅でAIで学習......。要するに1週ごとに学習の仕方を変えることによって、AIの良さと人間の教育の良さの両方が生かされる。これは必ず毎回変えるのではなく、それぞれの大学でいろいろなやり方があると思うのですが、案外これからの主流になるかもしれません。

~アメリカはAI教育への理解も進んでいるのですか。

いえ、意外なこともあるのです。実はアメリカの教員の中でも、AIに理解があるのは20%だそうです。「AIあるいは科学技術の進展が、教育にとってかわられる、あるいは重要だ」という質問に対して、59%が「そうではない。教育に必要なのは、やはりFace to Faceである」と回答しているのだとか。アメリカの大学の教員も、実は保守的なんです。ただ、民間は違います。アルファ碁を開発したGoogleは、AIに対して1兆円を投資しているといわれ、AppleやFacebookも同様です。それに比べて、日本ではトヨタがシリコンバレーに研究所を作って1000億円くらいの投資を、国がAIのために新たな組織を立ち上げてやはり1000億円を予定していますが、アメリカに比べるとまだまだ遅れています。
先日、世界の大学の中でAIに対して先進的な研究をしている一覧というのが発表されたのですが、アメリカの大学が40~50校、その他はカナダやヨーロッパ諸国、中国、シンガポールなど。残念なことに日本の大学は1校も入っていませんでした。もっと官民あげて世界をリードする技術の開発や、人材の育成に取り組んでいく必要はあるでしょう。
しかし実は日本でも、AIを使った教育は導入されています。塾などの教育関連産業の中で、「ニュートン」というAIを使って子どもたちが勉強をしています。子どもたちに話を聞くと、「学校より面白くて、分かりやすい」と言うのです。なぜかというと、AIには何度でも同じ質問ができるから。何回繰り返し聞いても、AIは怒りません。そしてその上で、「この子はここまでしかできないんだな」とAI自身が学習をして、一人ひとりに応じた新しい教え方をしてくれるわけです。分かりやすいはずですよね。
AppleがiPhoneを発売してから約10年が経ちました。生まれたときから当たり前のようにスマートフォンがある世代が今、塾などでAIを使って勉強をしています。そうした子どもたちが、あと10年もすれば大学に入学するのです。

BILANC11船渡先生ザビエル大学
2016年夏にアメリカ研修を実施。ザビエル大学のトム・ヘイズ教授や、WASC(西部地区基準協会)のラルフ・ウォルフ前会長らを訪問。アメリカの大学における社会的圧力とAIの大学に与える影響等を調査した

~そういう時代に、大学はどのように向き合っていけばいいのでしょうか。

ディープラーニングは、研究者自身が驚くほどのスピードで進化しています。アルファ碁が人間に勝利するのは、まだ5年はかかるだろうといわれていましたが、今年実現しました。この加速度的なAIの進歩はもう止めようがありません。すでに私たちの生活にはAIが取り入れられており、今後、急速に進展していくでしょう。
大切なのは、その事実を認識すること。そしてむやみに恐れないことです。そもそも社会全体の90~95%が弱気型で構成されているといわれていて、新しい技術が開発されたときに、「大変なことになった」「これからどうしよう」という弱気になってしまう人のほうが多いんです。これは日本だけでなく、世界的な傾向だとされています。だから、AIそのものの考えが進展していくと核のボタンを押すのではないかと心配をしたり、AIによって自分の仕事が奪われるのではないかと不安になったりしてしまうわけですね。
しかし、人類の歴史を振り返ってみると、産業革命やオートメーション化の台頭、パソコンが登場したときなど、悲観的な予測はしたものの、結果として人類は乗り切って現在に至っています。新しい技術が開発されたことで、職を失う人は確かに出てくるかもしれませんが、失った人たちが新たに働けるような仕事を生み出すといったことは、これまでも繰り返されているのです。
AIと人間は得意分野が違うのですから、AIをうまく利用して、AIが得意とする定型的な分野は任せる。私たち職員や教員は、AIができないことを担っていく。AIを敵視するのではなく、競合するのでもなく、AIとの"共存"方法を積極的に考えていけばいいと思います。

~具体的にはどうすればよいのでしょうか。

重要なのは、「こういう大学を作り上げていこう」という強い気持ち。職員や教員の一人ひとりが、「どういう大学にしたいか」を考えることです。AIとうまく共存していく大学像を、今、確立しなくてはなりません。
そのためには、AIの得意、不得意は何なのか、どのくらいの能力を持っているのかを知ることが必要であり、AIに関する知識を蓄えることが大切です。例えば、介護ロボットの登場によって、看護系学部の教育は変わっていきます。ほかにもさまざまな分野でAIが導入されれば、それに対応して教育内容も変更しなくてはなりません。AI先生が登場すると、設置基準上、先生にカウントされるのかという問題も出てくるでしょう。そうなると授業料の考え方も変わるかもしれませんし、法律や省令を整備する必要も出てくるかもしれません。教育の面だけではなく、運営の面でも、定員割れをしている大学などで人件費を削減する必要があるなら、AIを導入すべきなのです。これから数年は、変化に備えて知識を蓄える時間になると思います。もしかすると、この5年間で大学が生き残れるかどうかが決まるかもしれません。

~今後数年間が勝負になるということでしょうか。

そうですね。それは大学に関わるすべての年齢の人たちが対象です。とりわけ、20代、30代の人たちは、どういう時代になるか分からないからこそ、新しい社会に対応できる能力を身につけるために、勉強をしておかなければなりません。自分が生きているうちは変わらないだろうと考える人たちもいるでしょうが、そういう人たちの大きな役割は、若い人たちや積極的な人たちに、AIを勉強するチャンスを与えることだと思います。
日本でも10年後にはAIが、かなり社会に浸透するといわれていますが、そのスタートラインは東京オリンピックだと思います。さまざまなAIが使われるでしょうし、「東京オリンピックが日本におけるAI元年だ」と言う人もいるようです。これからの約4年間、技術革新を進めてトライする場所として、あるいはこれまでの成果をアピールする場所として、東京オリンピックは最高の舞台といえるでしょう。
2016年の今、必要なのはAIを学び、知識を蓄えること。そして、AIと人間がうまく共存して教育を展開する大学像を明確に描き、管理運営するシステムを構築することだと思います。


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