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継続就労できる仕組みづくりへ

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東邦大学の男女共同参画の取り組みは、「継続就労」の観点から各種支援制度や病児保育室、医学部生への啓蒙教育などが推進されています。現在では、学内のみならず他大学・研究機関との連携も図るなどさらに拡大。男女共同参画のフロンティアである東邦大学ならではの歴史的背景も交えて、男女共同参画推進センター長の片桐由起子教授にお話いただきました。

編集:日経BPコンサルティング

BILANC10「ダイバーシティ」片桐先生 東邦大学男女共同参画推進センター長
片桐 由起子氏(かたぎり・ゆきこ)
1992年東邦大学医学部医学科卒業後、同医学部産科婦人科学講座助手、講師を経て2010年准教授に就任。現在は東邦大学医療センター大森病院産婦人科・リプロダクションセンター副センター長、遺伝診療室室長・東邦大学男女共同参画推進センター長を兼任。2016年より東邦大学医学部産科婦人科学講座教授に就任

~東邦大学における男女共同参画の特徴的な取り組みについてご紹介ください。

本学では2008年に女性医師支援室を開設し、翌年に文部科学省科学技術振興調整費「女性研究者支援モデル育成」事業に採択されたことから、男女共同参画が本格的にスタートしました。当初は事業推進本部として設立された男女共同参画推進室も、現在では学長直下の男女共同参画推進センターへと発展しています。
男女共同参画推進センターの取り組みは、女性医師支援や研究支援員派遣制度のほか、メンター制度・カウンセリング、次世代育成活動などを実施しています。これらの支援の中でも特徴的なのが、女性医師支援の一つである「准修練医制度」です。子育てや介護などでこれまでと同様にフルタイムでは働けなくなった医師でも、週3.5日間の勤務で社会保障を担保するという制度で、うち1日は自宅勤務も認められています。ただし、制度利用中の給料は減額支給、職歴は1/2となります。そうすることで、支援する側と受ける側を同じ物差しで評価することが可能で、フルタイムで働くスタッフの不公平感をなくすことができます。
また、2010年に病児保育室「ひまわり」を開設しました。これは、本学に所属する全教職員が利用できるものです。

~研究者に対する支援制度は、どのようなものがありますか。

子育てや介護をしながらでも研究者が研究活動を継続できるよう、研究支援員を派遣する「研究支援員派遣制度」があります。「研究者」というと、研究室の中で機器や試薬を用いた実験をしてデータを採取している人をイメージするかもしれませんが、そういった分野の研究ばかりではなく、実際の患者さんたちの診療や看護の様子を検討し、臨床現場でより良い診療・看護の実現に直ちに結びつくことを目指した研究もあります。
臨床現場で日々取り組んでいる振り返りや検討も、実は研究であり、それまでは臨床現場で働くスタッフたちは研究者としてカウントされていませんでした。そうしたスタッフたちを研究者として評価し、当事者たちにも「自分たちの取り組んでいることも研究なんだ」と気づいてもらい、研究者の裾野を広げる良い機会になりました。

~男女共同参画推進室の設立から現在まで、
どのように活動が広がってきたのでしょうか。

最初に取り組んだのは、直接的な女性医師支援ではなく、上司への啓発でした。いかに当事者が声を上げても、受け入れ側に理解がなければ女性医師支援の取り組みは進まないと考えたからです。そこで、教授や准教授、医局長といった教室や講座をマネジメントする立場の人を対象に、男女共同参画の重要性を説明するセミナーを開催しました。そのような方々の協力を得て、トップダウン形式でプロジェクトをスタートさせることができたのです。
当事者たちへの支援活動は、「継続就労」に注力しました。まず今働いている人たちが出産や子育てなどのライフイベントに際しても働き続けられる仕組みづくりをすることです。准修練医制度や研究支援員派遣制度なども、その視点から作られた制度です。また、このような制度を根付かせるには、当事者になる以前から制度のことを知ってもらうことが大事になります。育休などで仕事を休んでいる期間が長くなるほど復帰へのハードルは高くなりますが、支援制度があると知っていれば職場に戻りやすくなり、短期間で復帰することが可能になります。

~東邦大学における男女共同参画は、大学の歴史にも影響を受けているのでしょうか。

本学の前身は女性医師育成のための教育機関である帝国女子医学専門学校であり、ダイバーシティという言葉が注目される以前から、女性職員の働きやすい環境づくりに力を入れていたように思います。その象徴ともいえるのが、1970年に医学部付属施設として開園した東邦大学保育園です。この保育園には私の子どもたちも通いましたが、園児の保護者同士、仕事の関係性を超えたお付き合いができる良い機会でもありました。女性医師支援室の立ち上げの際にも、保育園の保護者としてもお付き合いのあった上司や同僚が複数名いましたので、より一層強い連帯感を持って取り組めたという強みがありました。教授職や執行部の方たちの中にも元保育園保護者の方々が何人もいらっしゃるので、これら事業への取り組みがスムーズに進められた一因であったと思っています。
そういった環境でも、やはり「All or None」という問題はありました。それまでと同じように働く「All」か、できないなら去る「None」しかないという環境です。実際、多くの先輩が妊娠・出産を機に大学や医療現場から去っていきました。私自身は周囲の協力を得られたこともあり、0歳と2歳の二人の子どもを抱えて、離島の僻地医療という義務を果たす「All」を選択しました。当時の私は「子どもがいるから働けない」とか「働く気がない」などとは決して言われたくないと思い、みんなと同じように働きたいと考えていました。そうはいってもなかなか難しいことにも直面し、そういった状況を変えなければいけないという問題意識は強く感じていました。しかし当事者が意見を言うこと、意見を聞いてもらうことは難しいと思っていました。

~男女共同参画を推進する上で重視していることは何でしょうか。

数々の支援制度は下支えをするものですが、それがマンパワー不足を補うためのものではありません。支援される人に対する「継続的なキャリア形成」が目的で、目的が達成された結果として、マンパワーが充足していくものだと思います。スピードが人よりも緩やかになることがあっても、少しずつでもステップアップして継続的な就労が可能になることが大事です。
従来、医師は卒業後の研修が終わって医局に入るという道筋がありました。ところが、今は医学部に入学する年齢やそれまでの経歴も多様ですし、医師としての研鑽が始まってからもどういう順序でステップアップするか、分野によっても異なります。子育て中の女性も、子ども・家庭・仕事をどのように関わっていきたいかは人それぞれ。それを一つのルールにはめ込もうとせず、臨機応変に対応してこそダイバーシティです。「子どもが小さいからできないよね」というような「配慮」という名の「決めつけ」は、ダイバーシティを妨げるものだと思います。

~他大学との連携では、どのような取り組みがあるのでしょうか。

東邦大学と千葉大学、放射線医学総合研究所という三つの機関により、2015年度文部科学省科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(連携型)」が始まりました。この事業は、それぞれの機関が実施してきた男女共同参画推進の実績を共有することで、研究環境のダイバーシティを高め、優れた研究成果を創出することを目的としています。この事業は大きく分けて三つの取り組みにより構成されています。一つ目は、子育てや介護、または育休・産休復帰後間もない研究者に対して研究支援員を配置する「ダイバーシティ環境推進」。二つ目は、独創的・先駆的な研究に対して、研究費助成等を行う「研究力向上」で、三機関の女性研究者が主となって研究するものが対象となります。三つ目は、女性上位職の増加や上位職増加に向けて女性研究者の裾野拡大を目的とした「キャリアアップ支援」です。

~今後に向けた課題があれば教えてください。

支援制度の利用者がどんどん増えているのですが、これ以上増え続けたときに、どのようになるのかを検討しなくてはいけません。医療現場は夜間も働くスタッフがいるので、昼間しか働かないスタッフが増えれば、それだけスタッフへの負担が大きくなってしまいます。そのような勤務体系のバランスをどうするかといった問題もあります。今後は、医学部長など組織の上位にいる人が介護の問題に直面することも考えられます。どのような立場の人でも等しく支援を受けて仕事を継続できるようにしていかなければいけませんから、より多様な働き方に対応するシステムを構築する必要があると考えています。


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